紅き蝶 白き魂2
□46話
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灯りが照らす室内は重苦しい空気が漂っていた。
夕暮れのなか見つけた街の宿を押さえられて、ほっと一息ついたのもつかの間、寝台に寝かせた浅葱がいっこうに目を覚まさないのだ。
柳宿がずっと気を送り続けているのにも関わらず、顔色が僅かに良くなっただけ。
ピクリとも動かない浅葱に、井宿や軫宿が術で回復を試みたがそれもムダだった。
気を探っていた井宿は、目を覚まさないのは巫女である美朱を守るために力を発動させ力尽きたのだろうと推測したが、根本的な解決には至らなかった。
とりあえず、手をこまねいているのならと、皆がなにか手がかりがないかと街に繰り出し今は柳宿と浅葱の二人だけだ。
「……守るって、なにがあっても守るって誓ったのに」
柳宿の口から掠れた声で呟きがもれる。
やるせなさ、苛立ち、無力感。彼女を好きになってから、どれだけそれらを感じただろう。
七星士なのに。いや、七星士だから形代は守れないと、神は……神仏はそう言いたいのか。
七星士は巫女を守れればいいと、そういいたいのだろうか。
「むかつくわ」
なにも出来ない苛立ちを含ませ、吐き捨てる。
自分にできることは、ただひたすら気を送り続けてることだけ。彼女が早く目覚めるようにするだけだ。
今の浅葱の身体には、美朱から引き受けた穢れが溜まった状態のはずなのだ。少しでも浄化できればと、さらに気を多めに送る。
本当は交わり、身体全体から取り払った方がいいのだろう。けれど、柳宿はそんなことはしたくなかった。
意識がない状態で、彼女を抱きたくはない。あの行為は、身を浄める以上に愛情を確かめる行為なのだから。
サラリと空いた手で頬にかかった髪を退けてやる。
滑らかな肌触りに柳宿は寂しげに口を歪めた。
「早く目、開けなさいよ。じゃないと、襲っちゃうわよ」
身をかがめそっと浅葱の額にキスを落とす。
刹那、浅葱の胸元が銀色に輝き、広いと言えない室内を埋めつくした。
「な、なにが……!?」
あまりの眩しさにきつく目を瞑った柳宿が声をあげるが、二人しかいない部屋では答える者もいない。
柳宿はただ光が収まるのを待つしかできなかった。
光は長く続かなかったようで、あまり間を置かず消えた。恐る恐る目を開けた柳宿は、辺りを見回し目を見開く。
「なにあれ……」
頭上に小さい石が浮いている。
見覚えのある、黒い石。
神座宝を手に入れるときに見た石だ。そして、神座宝を手に入れたあと、浅葱が握りしめていたはずの石。
「なんで……」
呆然と頭上の石を見上げる。柳宿はいきなりのことに思考がマヒしていた。
見覚えのある石は、すーっと音もなく降下しそのまま浅葱の中に溶けるように消えていった。
「ま…っ」
ひきつった声が喉からでる。何が起こったのか、理解できない事象に柳宿は、ただ見つめるばかりだった。