紅き蝶 白き魂2

□44話
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眼前に広がる荘厳な光景に皆が感嘆の息を吐く。先ほどまでいた薄暗い洞窟と同じ所だとは思えない。

天井から光が零れて来ているのかと思い見上げたが、頭上にはこれまたキレイな造りの天井のみだった。

それなのに眩しいくらい明るい空間は、人知を超えた力が働いたとしか思えない。

その空間の先。やや高い壇上に台が設けられ、それを護るかのように布が重なっているのが見える。

そこに自分たちが探している神座宝が納められているのだろう。

台座に目を向けた浅葱は、不意に懐かしく淋しい感覚にとらわれ隣に立つ柳宿の袖を軽くつまんだ。


「あら?どうしたの浅葱」

「あ……すみません。この空間に圧倒されてしまったみたいです」

「そうよねぇ。紅南国ではお目にかかれない造りだし、そもそもあの扉の向こう側だとは思えない光景だものね」


とっさにでた言い訳に柳宿は疑いもせず同意する。

それにほっと胸を撫で下ろし、普通を装い道案内をしてくれた玄武七星士を見た。

その間も心は落ちつかない。


(なんでかしら。なんだか泣きたい気分……。まるでずっと会いたくて、でも会えなかった人に会うような)


会いたい人はいる。でも会いたい人はこの世界にいない。

自分が会いたくて焦がれるのは、こんな清廉な空気とは正反対のどこか荒々しく真っ直ぐな光。

その背をずっと見てきた。また見たいと思わずにはいられないほどに魅入られる強い光だ。

柔らかで全てを包みこむ光ではない。

浅葱は懐に仕舞っている札の上を無意識に抑えていた。


「神座宝があるのは奥にある台座の上です。ここから先は巫女と形代だけついてきてください」

「え?あたしたちだけ?」

「はい。理由はいけば分かります」


意味深げな言葉に美朱と浅葱は顔を見合わせ、大人しく斗宿と虚宿の後をついて行くことにした。

後ろでは翼宿が「ケチだ」と愚痴り、周りが宥めているのが聞こえる。


「そこで止まってください」


斗宿の制止で台座がある布の手前で止まる。

不思議に思い首を傾げていると、目の前にうっすらと黒い光が幕の様に立ちはだかっていた。


「あの、これってなに?この光が壁みたいになってるんだけど」

「……これ以上先に行かせませんって感じね」


美朱がちょんちょんと黒い光をつつく。その感触はガラスを突いているように硬質だった。


「これがお二人だけお連れした理由です。この光は神座宝を護るために台座周辺一帯を囲っています」

「これはオレたちも通ることができないのです。出来るのはおそらく形代であるあなただけ」

「え?巫女のあたしじゃなくて浅葱なの?」

「はい。上を見てください。黒い石の様なものが浮かんでいるのが見えますか?
あれは玄武の形代だった娘が身につけていたものです。彼女が神座宝を護るためにこのような結界をしいているようなのです」


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