紅き蝶 白き魂2

□42話
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「浅葱!!柳宿…っ!!」


白銀の世界に少女の悲痛な叫びが木霊する。少女――美朱は朱金の光を見つめ呆然と立つしかなかった。

足元の白い雪は辺り一面踏み荒らされ、所々にある血痕が生々しい。

朱金の光の近くには青龍七星士の一人が事切れていた。おそらく柳宿が倒したのだろうと思われた。


「いったい何が……」

「わ、わかんない。あの光の中に二人の姿が見えたけど…っ」


隣に立つ鬼宿の腕をぎゅっと掴んでいた美朱は、肩に感じる鈍い痛みに眉宇を寄せた。

痛みを感じるのは浅葱が怪我をしている証拠。なのに確かめることもできない歯痒さに唇を引き結ぶ。

あの光の中に二人が消えたのを見たのは確か。ならばあの中を探れば二人がいるのではないだろうか。

じっとしていても埒が明かない。美朱は痛みに耐え、意を決し恐る恐る光りに近づく。


「美朱ッ!?」


慌てる鬼宿の声を背に、美朱はぐっと唇を噛み手を伸ばした。

ゆっくりと伸ばされた指先が光りに触れる。


「……あったかい……」


肌を突き刺す外気とはかけ離れた日だまりの様な温かさに思わず呟く。


「ねぇ鬼宿。この光、すっごくあったかいよ」

「ば、バカ野郎!!あぶねぇかもしれねぇだろうが!!」

「でも…ッ!」


言い募る美朱を慌てて引き戻した鬼宿は顔を厳しくさせ、朱金の光を一瞥すると地に倒れ伏している敵の亡骸を見やる。

話に聞いていた通りの姿をした男だ。この寒さの中、毛皮を適当に巻きつけただけの姿をしているのがやけに異質さを感じる。

首がおかしな方向なのは柳宿にやられたからだろう。

しかし目立った傷がないのに身体や腕に血が付着しているのが目につき、遣る瀬無さに顔を背けると周囲を見回した。

光の正体も柳宿たちのことも術に詳しくない自分たちには分からない。

それを専門としている井宿を呼んだ方が賢明だ。

それに美朱の様子からして浅葱が怪我を負っているはずだ。周囲の状況からしても柳宿は相当な怪我をしているだろう。


「美朱、ちょっとそのままでいろよ」

「鬼宿?」


戸惑う美朱をおいて鬼宿は枯れ枝を集め火打石で火をつけようと試みる。

枯れ木でも湿っているために中々火がつかない。何度となく打ち、やっとの事で枝に火種が落ちくすんだ煙が空に昇った。


「これなら井宿たちも気付くだろ」

「あ、のろし」


柳宿に預けていた閃光弾は敵を撃退するために昨日使ってしまっていたし、あったとしても柳宿に預けていたのでどっちにしろ使用できる状況ではない。

でもこれなら鬼宿の言う通り仲間に知らせられる。

ゆらゆらと揺れる煙を見上げ納得の声を上げた美朱は、痛む肩を庇うように手をあて祈るように煙を見つめた。


(みんな、お願い早く来て)


二人の近くでは朱金の光が煌々と輝き続けていた。






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