紅き蝶 白き魂2

□41話
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「一体どこよ、ここ…」



見慣れない木造の建物と月明かり以外光がない知らない土地。さらに言えば自分以外人っ子一人見当たらない。

確か神座宝を探して黒山を登り、そこで遭遇した青龍七星士の一人と戦ったはずだ。

辛うじて倒した事は覚えている。死闘によって深手を負ったことも覚えている。

最後に見たのは顔をぐしゃぐしゃに歪め泣いている恋人の顔だ。


「あー、やばっ。最後に見たのが泣き顔なんてシャレにならないわ」


ここが天国と言われているところなら、自分は死んでしまったんだろう。

あの雪山に恋人一人を残して。

考えただけで落ち込む。死なないとか豪語したくせに、実際はこの有り様。

あの後、浅葱はどうしたのだろう。かすかに美朱と鬼宿の声を聞いた気がしたが、彼女の様子を知る術は今の自分にはない。

はぁ…と溜息をつく。ここがどこだか分からないのでつっ立っているしかない。


「今のあの子は一人になんてしておけないのに…」


きっと泣いている。自分のせいで泣いていと思うと堪らない。
あの白い頬に流れる涙を拭う事もできないことに歯痒さを覚えながら、柳宿は俯き加減にくしゃりと前髪を握り締めた。


「ざまぁないわ…」


護ると誓った。最後まで『生きて』護ると。

その誓いさえ護れないなんて何が朱雀七星士だ。


「………なんだか色々と遣る瀬無い」


でも敵から護れただけは唯一自分を褒めてやりたい。

もしあそこで負けていたら彼女は敵の餌食になっていたはずだから。



柳宿は暫くそのまま立ちつくし、やがて深々と息を吐きだした。


「……死んだってことならユーレイになってあの子を見守ることはできるはずよね。
私が傍にいられなくなったっていうことは、翼宿がちょっかいかけてくることは間違いないはず。
うふふ…そう易々とはいかせないわっ。

――――絶対に呪ってやるっ」


悪鬼もかくやと思えるほど瞳を嫉妬で燃やし、柳宿は口角を僅かに持ち上げる。

死んだのなら、死んだなりに恋人を護ろう。

自分の眼鏡にかなった男でなければ、大切な恋人は任せられない。

なんでも我慢ばかりで、笑うことも泣くことも苦手な彼女を支えられる男と巡り合えるまで護ってやろうではないか。

そうと決まればまずはこの変な空間から現実の世界に戻らねばならない。

そしてダメな男どもから浅葱を護らなければ。

さっきまでの悲壮感など吹き飛ばし、やや黒い笑みを浮かべた柳宿はおもむろに顔を持ち上げ、周囲を鋭く見回した。


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