紅き蝶 白き魂2
□40話
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『記憶があるのは厄介じゃな…。そうじゃよ、お主が考えている通りじゃ』
「四神天地書に形代の存在が書いてない理由は―――」
『無用な争いを生む存在をホイホイ表に出せるか』
「………」
全て、全て太一君の手の平で踊っていたにすぎなかった。
あんなに悩んで苦しんでいたのに。
自分は一体何なのだろう。
美朱の姉で、同じ中学三年生で、恋に勉強に勤しむ普通の女の子だったはずなのに。
その正体がただの人形?
あまりのことに愕然としている浅葱に太一君は感情を含まない声で続けた。
『なにゆえ、そんな顔をするのじゃ。その特異性のおかげで柳宿は助かったのじゃぞ』
「……」
『本来ならば、柳宿は黒山で命を落とす所だった。
それを無意識のうちにでも捕え、現世に留められたことは喜ぶべきことじゃろうに』
「……柳宿…」
そうだ。ここで絶望している暇はない。
柳宿は絶命寸前だった。太一君の言う事が真実ならば、この事実は素直に喜べないが柳宿はこのお陰で助かったはず。
今、彼はどうしているのだろう?
(逢いたい…っ)
「バカね」って呆れたように微笑んで欲しい。抱きしめて生きてるんだと確認したい。
「太一君…柳宿は今どうしているんですか?」
『……む。柳宿か?ヤツはお主の力で留まったからの、生と死の狭間におる。
生きるでもない、死ぬでもない、どっちつかずの空間じゃ。お主が迎えに行かねばヤツはいつまでもそこに居続けることになるぞ』
太一君の言葉に浅葱は柳宿の置かれている状況を思い浮かべ、ぐっと口元を引き締めた。
「迎えに行きます。柳宿の所に案内してください」
『ふむ。少しはマシな顔になったな。柳宿はあの光の先じゃ。
……お主と繋がった状態なのでな、いらぬものを見る事になるやもしれん』
「もう、十分見ました。これ以上は驚きようがありません」
強張った表情のまま浅葱は答え、顔を上げる。
太一君が言う通り視線の先に仄かな光が遠くの方で光っていた。あれが柳宿の所に続く入口。
一度瞳を閉じ、深呼吸する。柳宿は鋭いから動揺していると見抜かれてしまう。
もうこれ以上彼に重荷になるようなことは知って欲しくないのだ。
数回呼吸を整えると、浅葱はぐっと身体に力を入れ立ち上がった。
(柳宿、すぐに行きます。待っててください)
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