紅き蝶 白き魂2
□40話
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「ここは……?」
薄暗い中自分の声が反響する。
わりと最近、こんな状況になったことがあった…と何となく思い出す。
そう、あれは美朱が行方不明だった時。
「って、そんなこと思い出している場合じゃない!!―――柳宿どこ!?」
あの白い雪を染めた鮮血が焼き付いて離れない。手には彼の温もりがまだ残っている。
なのにここには柳宿の姿はない。確かにこの手に、この腕に彼を抱えていたのに。
最後に見た光景は慈愛の微笑みを浮かべた柳宿。そして切羽詰まったような慌てているような美朱と鬼宿の叫び声。
「お願いっ、返事をして!!柳宿!!」
どうして!?なんで私だけここにいるの!?
「ねぇ!!」
彼は生きているのだろうか?それとも…っ。
「誰でもいい!、教えて!彼は、柳宿はどうしているの…っ」
最悪の結末を想像しブルリと身体を震わせる。恋人が生死の境を彷徨っているのに冷静でいれられるはずない。
ここがどこかも、なぜこんな所にいるのかも分からない不安と、柳宿が死んでしまうのではという恐怖に腕を組み自分の身体を抱き込むようにして蹲る。
叫んでも反響した自分の声が返ってくるだけなのがなおさら怖かった。
ポタリ、と頬を伝う涙が漆黒の空間に溶ける。
「……柳宿……っ」
『無事じゃよ。今は狭間におるがな』
「え…?」
聞き覚えのある声にゆるゆると顔を上げる。しかしそこに人の姿はない。
「太一君…?太一君っ、ここはなんなんですか!?柳宿は!?」
『じゃから無事だといっておるだろう!少し冷静になってもらわねばわしが困る。
まったく…魂に保護をつけておいて正解じゃったな』
「よかった……っ」
姿は見えなくとも一命を取り留めたらしいことに、ほっと胸を撫で下ろす。太一君が言うのならば安心できる。
するとストンと尻餅をついてしまった。気が抜けて腰が抜けたようだ。
『安心するのはこの状況を切り抜けてからにすることじゃな』
「あ、そうです。魂に保護ってどういうことですか?そもそもここは一体…」
右も左も真っ黒な空間で方向感覚が鈍る。
『ここはお主が生まれた所じゃ』
「うまれた?」
こんな何もない所から?
いや、そもそも自分は母から生まれているはずだ。いったいどんな意味が――。
『ふむ、思い出さないか?ここに見覚えは?』
「ありません」
『……人としての生に定着しすぎてしまったか…』
ぼそりと呟かれた言葉は、静寂な空間に広がり浅葱の耳に入る。
「それはどういうことですか?」
『………』
彼女は座り込んだまま不審そうに問うと太一君は沈黙してしまった。
今のは是が非でも答えてもらわなくては。おそらくそれが自分の違和感の正体のはず。
前世の記憶があること。形代などという役目があること。そして特鳥蘭で不意に脳裏に響いた言葉も説明できるような気がする。
涙でぬれてしまった目で暗闇を睨みつける。
どのくらい時間が流れたのか分からないが、長く続いたと感じた緊張した時間がふっと切れた。
『強情な娘じゃな』
「……」
『……百聞は一見にしかず、という言葉がお主の世界にはあったか。
仕方ない。よいか、これはお主の魂の記憶じゃ。決して眼を反らすでないぞ』
「反らしません。私は知りたいんです」
自分が本当は何者なのか。どうしてここにいるのか。知らなければならない。絶対に。
それが柳宿と一緒にいられる手掛かりにもなるかもしれない。
暗闇から響く声に挑むように声を張り上げる。
ややあって太一君の溜息が聞こえた。
『――――――良い覚悟じゃ』
その声を最後に浅葱は急速に意識を薄れさせ、漆黒の中に力なく倒れ込んだ。
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