紅き蝶 白き魂2

□閑話5
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「―――つまり、夕城君の双子の妹たちが本に吸い込まれてそこで旅をしていると」

「有形無形な話だな」

「ごもっとも…」


あれから笑顔と睨みの攻撃に耐えかね、現実に戻った奎介と自分の運を呪った哲也は詳細を大鳥たちに説明した。

大鳥は難しい顔で四神天地書を眺め、土方は険しい顔で縮こまる青年2人を睨みつけている。


「信じられないかもしれませんけど現実なんですっ。現にこうやって文字が浮き出てきてますし」


そう言ってやけくそで最新ページを広げ2人の前に置く。

それを覗きこんだ大鳥と土方は食い入るよう本を見つめた。段々と2人の目が見開いて行く。


「……確かにな」

「一体どういう原理で浮いてくるんだろう」


何かの物語りのようで、登場人物たちの行動やセリフが次々と浮かび上がっていく。

ふっと興味で本を手に取った大鳥は、これまでのあらましを見ようとページを捲る。

最初はまるで預言の様な一節。その次に巫女と呼ばれることになる少女の登場。

先に進めば巫女になる決意を固め、仲間を探す旅が綴られていた。

登場する人物の中で中心的な存在は、度々出てくる美朱という少女だ。どうやら彼女が巫女らしい。

その彼女を護る役目を担っているのが七星宿といわれる七人の男たち。その中で一人、立ち位置が不安定な少女の名前を見つけ大鳥は思案するように眼を細めた。


「美朱という子と浅葱という子が君の妹達かな?」

「そうです」

「それで?君たちが知りたいっていう新選組の子はどっち」

「それは……姉の浅葱の方です。浅葱は歳のわりに大人びている子だったんですけど、それでもどこにでもいる女の子です。
でもその本の中に入ってから知らない事がたくさん出てきて…」

「やっぱりそうか」

「大鳥さん、俺にも見せてくれ」


興味を持ったらしい土方に本を預け、大鳥は手を組み机に肘をつけると疲れたよう目尻を下げ奎介を見た。

さっきまで笑っていたのが嘘のように笑みを消した大鳥に、奎介のみらなず哲也も緊張に背筋を正す。


「山賊の根城で出した『新選組の男』。途中で出てくる『椿』と言う名。意味ありげな立ち位置不安定な少女。
その正体が都内に住む中学三年の女の子、か。
―――……こんなに近くにいて気付かない理由がまさかこんな理由だったなんて、まったく一体どうなっているんだか」


独りごとのように呟く大鳥に奎介たちは訝しげに首を傾げる。

大鳥は彼らに構うことなく一呼吸置くと「しかたない、君たちにも協力を願おう」と言った。



「ちょっとまってください!なんで協力なんですか?俺達はただ妹達を助けたいだけでっ」

「君たちは妹さんを助けたい。僕たちは『彼女』を見つけたい。
お互いの利害が一致することだし、ギブ&テイクだ」

「利害の一致?」


哲也の不審そうな声に彼は頷き、土方曰く食えない笑みを浮かべる。


「僕は君たちが調べようとしているその本の著者について、多方面に手助けしよう。
代わりに君たちは双子の姉の浅葱君について情報をくれたまえ。この本は君たちが持っていなければならないしね」

「どうしてそこまで浅葱にこだわるんですか?だっておかしいじゃないっすか!
彼女はただの女の子なんですよ?」


奎介の言葉はもっともな事で哲也も頷く。

それに答えたのは読み進めていた本から目を離し、まるで射るような眼差しになった土方だった。


「お前の妹の片方は俺達が探し求めていた『女隊士』かも知れねぇ。
女隊士の名は土方椿。新選組副長の実の妹だった女だ」


土方の発言に奎介たちは眼を見開き、ここが大学の一角であることも忘れ驚きに叫び声を上げた。








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