紅き蝶 白き魂2
□閑話5
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「で、どこから調べるんだよ」
ズカズカ歩く友人に嘆息しつつ問い掛けると、彼は沈黙をもって返してきた。
どうやら考えていなかったらしい。目先の事だけで爆走するクセはここでも発揮されているようだ。
哲也はやれやれと頭を振り、先ほどまで見ていた四神天地書の記述を思いだす。
確かあれには奥田永之介の事は一切書かれていなかったが、代わりに双子の姉に関する事が書かれていたはずだ。
確か――。
「だよな。調べるっつっても著者の子孫とかの場所知らねぇと調べようもないよなぁ。
とりあえず分かってる謎から調べていこうぜ」
「分かってる謎って、著者の自殺くらいじゃねぇか」
「いーやもう一件。直接には関係ないだろうけどな、あるんだよ。浅葱ちゃんの謎が」
ニヤっと不敵に笑った哲也に奎介はイヤそうに顔を歪める。
確かにこの本には関わりないが、彼女には謎が多すぎる。
実の妹。産まれた頃から知っているのに、この本の中に入ってから知らない事が色々出てきた。
一つ目はもう一つの人格とも言うべき「椿」。二つ目は山賊たちに襲われた時に出てきた「男」。
はらりと本を開き男の記述を探す。それはもう随分前で、妹達の長い旅を物語っていた。
「浅葱色の羽織の男、突如姿を現し鬼宿と共に―――か…」
「浅葱色の羽織っつたらアレだろ」
「「新選組」」
はぁ…と深々と溜息をこぼし奎介は力なく哲也を見た。
「なんで新選組。つーか浅葱は歴史なんかに興味なかったんだぞ?それがなんで」
「ま、考えても分かんないもんは分かんないってな。
ただ運がいいんだか、それとも何かにいいように操られてるんだか。ここにはそれに詳しい人がいんだよなぁ」
「いたっけか?そんな人」
「いるいる。ほら歴史マニアって噂の助教授」
「ああ…」
……いた。部屋を文献の山で固め実にコアな話をするとか聞いた事がある。
確かにあの助教授の分野は今自分たちが直面している謎の手掛かりになる。しかしそれもどれだけ当てにできるのか甚だ疑問に思ってしまう。
「ここでウダウダ考えるよりも一度聞いてみようぜ。
それに大学の助教授になるくらいの人だ、その人の伝手でもあれば奥田っていう作家のことを調べるのも楽になるだろうしな。
それに考えても見ろよ。噂になるくらいの本の山だぜ?作家の伝手くらいありそうじゃん」
「……確かに。そうと決まれば前は急げか」
「あっ、おい!」
手掛かりが少ない以上、少しでも多い方がいい。
奎介は本を仕舞うと急ぎ足で今来た道を引き返し、校内に向かって歩き出した。
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