邂逅と安らぎの檻にて

□第7話 
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あたりが白んできたことを眠い頭で理解する。

ただ布団の温もりにまだこのまま寝て居たい気持ちが勝り、秋風は身を捩った。

そのまま夢現の状態で意識が夢の中に落ちようとした時、近くで何か固いものとぶつかり、彼女はその秀麗な眉を寄せた。

固い。しかもなんだか身体が思うように動かない。

そろりと手を出す。固いがほど良い弾力と温もり。さらりとした感触は上質な布地の様に思える。

更に手を上に持っていけば、さらさらとした心地よい『毛玉』。


(毛玉…?)


そんなもの自分の部屋には置いていない。


(ならなんだ?)


ゆっくりと瞼を持ち上げる。薄く開かれた眼に飛び込んできたのは、くすんだ灰色に見える『銀髪』。

さらに視線を彷徨わせると、逞しい躯体が眼に入る。

ヒクリと秋風の頬が動いた。

身動きが取れないと腰辺りに手をやれば、身体と同じく逞しい腕ががっちりホールドしていた。


「……寒い」

「………」


頭上で声がし、端正な面が覗く。

掠れるように聞こえるハスキーな声は、巷の女性達が聞けばたちまち腰が砕けてしまうだろう。

しかし彼女にはそんな効果など皆無だ。



何故なら―――



「知兄ぃぃぃいいいい!!何度言ったら分かるんだ!私は抱き枕でも湯たんぽでもないわ!!」




彼女は抱きついている男の妹だからだ。






※  ※




「まったく、寒いなら厚着しろ。そんなに気崩れしてれば寒いのは当たり前だ」

「好きじゃない…。近くにお前がいるのならば、そちらに行くのが自然の道理、だろ?」

「だろ?――じゃない。私は一人で広々と寝たいんだよ」


何度注意してもいっこうに直らない困った兄の癖に、秋風は疲れたように深々と息を吐きだす。

向こうでも冬場になると必ず布団に潜り込んでは、抱き枕よろしく抱えられていたことを思い出す。

気がつけば同じ布団で寝てる事もしばしばだった。

何度叩きだしても潜り込んでくるので、最早疲れて蹴り出す事もしなくなっていた。

それに本当に抱き枕として抱きついてくるだけで、何かしようとする訳でもないようなのだ。

女としての危機はないと判断し、そのまましてたのがいけなかったのか、知盛はここでも秋風を人間カイロにしてしまったようだ。


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