天満月
□閑話4-2
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「石!」
「そう、こっちに戻って来た時持ってた石よ。大事にとってたんだから感謝しなさい」
「うんうん。柳宿ありがとう!」
手のひらだいの薄紫色の石を握り締め、精一杯頷く美朱に柳宿はやれやれと肩を竦めた。
まだこの石を鬼宿の……いや魏の中に入れていないのだから、そこまで感激することはないのに。
でもそれも無理はないかと柳宿は苦笑で「どーいたしまして」と返した。
「あとはこれで彼がいれば問題解決なのよねぇ」
「あ、うん。そうなんだけど……」
とうの魏は向こうの世界で女に現を抜かしているらしいし、美朱一人でこちらに来ているから彼単独で来ることもできないのかもしれない。
「む。翼宿……」
「なんや?」
ちょっと重い空気になっていたところで、不意に井宿が翼宿を呼んだ。
なにか感づいたのかと、みんなが井宿と翼宿の方を向いた瞬間、赤い光が一瞬広がり、次の瞬間なにか落下した重い音が響いた。ちなみに翼宿は上に乗ったもののせいで地べたに激突していた。
「いってぇー。……あれ?どうやって入ったんだ」
「魏!?」
「みあか……」
翼宿の上に降ってきた魏が、翼宿を下敷きにし驚きながら周りを見回し呆然と呟く。どうやってこちらに来たのかわからないらしい。
美朱はというと半裸姿の魏に可笑しな想像を働かせたのか、「あの人と……」と言うと黙り込んでしまった。
詳しくは聞いていなくても、向こうで魏が未遂とはいえ浮気をしていたらしいと理解した。
本当にこの二人は厄介事に縁がある。
「おーのーれーらーはー」
「あ、翼宿が復活したのだ」
「いつまで乗ってんじゃー!」
「うわ!?」
魏が落ちて来た衝撃でへばっていた翼宿が起き上がり、上に乗っていた魏が転がり落ちる。
美朱の時とは違い、魏の登場を察知できなかった翼宿に柳宿はぷっと笑いをこらえた。それでも声が漏れてしまったが、翼宿はお騒がせ二人にかまっていて気がつかなかったようだった。
気を取り直して、ごほんとわざとらしく咳をだし注意を引く。
「あんたたち、あたしン家で騒がないでくれる」
「あ、ごめん」
「……柳宿ン家?」
「そうよ」
慌てて謝ってきた美朱はさておき、いまいち状況が飲み込めていない魏に今いる場所を説明する。話の流れで記憶の石のことも話しておいた。
魏の視線が美朱の手に握られている小さな石に向けられる。
「そう、か。サンキュ柳宿。……その、美朱。それいいか?」
「うん……」
未だに顔を強張らせながらも、美朱はゆっくりと魏に近寄る。
浮気疑惑で不安だけど、魏のために石を還したいという葛藤が窺い知れた。
「これはどうも重苦しい空気だ……」
「二人の問題だからオイラたちは口出しできないのだ」
「……ケッ!」
二人の雰囲気に星宿が難しい顔で呟けば、同意するように井宿が口を挟む。翼宿は不貞腐れた顔で悪態をついていた。
「えっと……。はい、た――」
「う……ッ!うあぁぁあああ!」
美朱が魏に石を渡そうとした瞬間、魏の絶叫が部屋に響き渡った。
「はぁ!?なに!?」
「な、なんや!? たまが叫びだしおったで!?」
「美朱!いま何したの!?」
「な、なにもしてないよ! ただ少し魏と手が触れただけで……」
触れただけで苦しみだしたというのか。そんなバカな。
まだ苦しいのか身悶えしている魏に、柳宿は様子を窺う。これは何かの術のせいなのかもしれない。
井宿なら何か分かるかもしれないと、立ち上がろうとした柳宿は魏の耳たぶに二つの小さな穴を見つけた。