天満月

□閑話4−1
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「起きなさい美朱!」
「う……っ。魏ぁ!その女から離れてーーー!」
「うるさいっ!!」
「あで……っ!」


起きたと思いきや、いきなり叫びだした美朱に拳骨を落とす。

目覚め第一声の大声は近くにいた自分たちの耳をつんざいた上に、元々大通りを馬で闊歩する人もそう多くはなく間違いなくそこだけでも目立つ。

その上こんなに騒げばいい衆目の的だ。

「え?え?みんな、なんで?もしかして巻物の中に入っちゃったの!?」
「だからうるさいって言ってんの!……ったく、周りの迷惑も考えなさい」
「自分が一番迷惑かけてんじゃ」
「なによ?」
「い、いやー……?」


じろりとひと睨みをすると、翼宿は目を反らし下手な口笛で誤魔化し始めた。

井宿は「相変わらず弱いのだ……」と呆れているが、そんなことなどどうでもいいと柳宿はため息に続いて「とりあえず」と続ける。


「お昼食べに行きましょう。美朱の話はそこについてからでいいわね」
「う、うん」
「おう……」


有無を言わせないとばかりに強引に進める。こんな大通りでいつまでも騒いでいるわけにはいかない。

それに美朱の出現の経緯も、あの叫び声の意味も聞かなくては。


「あーヤダヤダ。ここ数日厄日すぎるわー」


そう言うと柳宿は「こっちに店があるわよ」と馬を誘導し始めた。

その後を仲間たちが追う形でついていく。昼の大通りはいつも通り人が込み合っていた。





―――――――――――
――――――――――――



「おじさん、おかわり!ぐす…っ」
「あいよ!」
「あんた、食べるか泣くかどっちかになさい」


柳宿たちは彼の馴染みの飲食店で腹ごしらえしつつ、美朱がこちらに来た経緯を聞いていた。

泣きながら大盛りの青椒肉絲(チンジャオロース)を頬張りつつ、彼女が言うには鬼宿――魏と旅行中に兄と偶然会い、兄と一緒にいた女性と共に観光をしていたこと。

宿に一泊していた時、魏の姿が見えなくてその女性――神代魅の所にいるのではと思い行ってみると、抱き合っている二人を見たこと。

そして、その現場を目撃した瞬間、赤い光に包まれこちらに来ていた……ということらしい。


「なんだか向こうも向こうで大変なのねぇ。美朱ぁ、こぼしまくってるわよ。ほら」
「あひはほ、ほひほ(ありがとう、柳宿)」


ボロボロとこぼれ落ちる料理を脇に寄せつつ、呆れた目で美朱の面倒を見る柳宿は彼女に水を勧めていた。

それを見つつ翼宿が茶化し「恋愛に一本気なヤツに、浮気なんて甲斐性などない」というと、美朱が「浮気じゃないモン!」と食ってかかった。


「それにあの影、人じゃなかった。魔物だったら魏が危ない……っ」
「そうはいってもねぇ。現実問題、こちらでどうこうできる事もできないし」
「柳宿冷たい!」


料理を頬張りつつむくれる美朱に、柳宿は「しかたないじゃない」とすげなく言う。
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