天満月
□閑話4−1
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昼を告げる銅鑼の音が響く栄陽の大通りを歩きながら、柳宿は痛くないはずの頭を抱えながら歩いていた。
横ではパカパカ音を鳴らす馬二頭。行きは一人だったのに、帰りは三人プラス幽霊一人という何とも変な帰宅となってしまっている。
やせ細った鳳綺の見送りに後ろ髪を引かれつつ、ごたごたで慌ただしい王宮を出たのはつい四半時。
てっきり星宿が見えるようになった鳳綺と再会を噛みしめあい、親子の時間をとると思っていた。しかし、星宿は何を思ってか二人に別れを告げついてきていた。
井宿は王宮に魔物除けの護符を張り終わると、翼宿と共にこちらもなぜかついてきていた。
美朱がいない以上共に行動しても意味はない気がしないでもない。
それでも仲間たちと行動を別にしようと思わないのは、いつ彼女がこちらに来るのか分からないからか、それとも懐かしいと思ってしまったからか。
「柳宿、頭痛いネ?」
「べつになんでもないわよ。それよりも、アンタたち、なんでついてくるのかしら?」
「あん?そりゃタマの玉の確認や」
「それに一緒に行動してた方が、美朱ちゃんが来た時なにかと便利なのだ」
そう言われれば返しようがなく、柳宿は肩を落としため息と同時に馬上の翼宿の脛を殴っておいた。
「ぐわっ!なにすんねん!」
「あんたがくだらないシャレを言うからよっ!」
翼宿の抗議を鼻で一蹴し、昼時でごったがえす道を歩く。家に着くには、馬の翼宿と井宿とは違い、徒歩の柳宿ではまだ少し時間がかかる。
来るときは家の者と共に馬で来ていたが、鳳綺のことが気がかりで少しだけ長めの滞在することにしていたことで先に帰らせてしまっていた。
今思えばそれはそれで正解だったわけで、何とも言えないものだ。まさか王宮に敵が来て、それに巻き込まれる形で長い時間滞在するとは思わなかったのだから。
「それよりもう昼なのだ。どこかで腹ごしらえするほうがいいのだ」
「そうねぇ……なら、この先に行きつけの店があるしそこに―――」
「――来る!」
言い終わらなうちに翼宿がいきなり叫びをあげ、柳宿の声を遮った。
柳宿たちが何それを問う前に一瞬頭上が朱く光り、どこからともなく人間が垂直で出現。しかもそれは紛れもなく美朱で、柳宿たちは呆けるしかない。
こちらに来る瞬間を初めてみた。それと同時に、どうして垂直で、しかも翼宿に突き刺さるように現れすのか不思議だ。
「ははは!どうだ!今度はちゃーんと受け止めたで!」
「翼宿にも学習能力があったのだ」
「……なによそれ。いままで激突されてたの?だっさ!」
「なんやとー!?」
「そんなことよりも美朱だ!しっかりしろ!」
道端で赤い光と共に人が出てきたというのに、誰一人として通行人が騒がない。
それどころか何事もなかったと、自分たちの横を通りすぎていく。美朱の出現はこの世界では感知することはないのか。
ひとまず疑問はそのままに、翼宿に抱きかかえられる形で気絶している美朱を見る。気絶だけで傷はなく柳宿は胸をなでおろすと、軽く彼女の肩を揺さぶった。