天満月

□9話
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昨日、生徒会委員たちの意識を操作していたので、もしかしたらまた策を講じて美朱に仕掛けてくるかもしれない。

ただ正面で乗り込んでも無理だろう。

それに美朱のことだ。きっとこの集まりが気になって様子を窺うために窓にはりつくだろうと予測をする。

その予想は的中し、生徒の意識を操作した祀行と、なぜかまた美朱とセットでいる魏が乱闘している所に出くわした。

多勢に無勢。拳法の心得のある魏でも、この人数を相手に立ち回りは無理らしく明らかに押されている。

美朱に至っては足手まといにしかなっていない。魏の後ろで守られていた。


「美朱!巻物!」

「浅葱!?」


この距離では手渡しは無理と瞬時に判断し、勢いよく二人に向かって投げる。

巻物は宙を舞い、むずび目が解け、ひらりと端が捲れた。

巻物は開けたと同時に効力を発揮するのか、美朱の腕時計と共に赤い光を放つ。

光の爆発に目を閉じた一瞬の間に、二人の姿は消えていた。残されたのは朱雀の光で倒れた生徒と浅葱だけ。

ポツンと地面に落ちている巻物を拾い上げ、浅葱は切なさに瞳を揺らした。


「やっぱり私は向こうへはいけないのね」

「……それは好都合」

「なに……っ」


まさかの祀行の声に、とっさに体を捩じり声のしたところから距離をとる。


「僕としたことが朱雀の光を浴びるとは……。まあいい。夕城浅葱さん、君にも痛い目にあせないといけないね」

「いやよ痛い目にあうなんて。見てのとおり、私はもう朱雀の加護はないの。無害のだし放っておいてくれないかしら?」

「無害?ふはは。君は本気でそう思っているのか」

「現に見てのとおり、残されてしまったし」

「その身の内側に玄武、周囲を朱雀で守られてよく言えるものだよ」

「え?」


祀行の口から思いもよらない言葉が出てきたことに、浅葱から一瞬隙ができた。

その隙を逃すまいと祀行が飛びかかってくるが、気を取られている浅葱は反応できない。

その刹那、巻物から赤い光が、自分の内側から銀の銀の光が溢れだし、祀行の手を阻んだ。

それは浅葱を守るように膨れ上がり、代わりに祀行の手を焼く。

ジュっと焼ける音がしたと理解したその時には、祀行はバケモノの姿に変化し逃げ去っていく後姿しか見えなかった。


「……玄武の光……」


呆然とバケモノを見つめ呟く。

この光はあの時、朱雀が封印された時に光ったのと同じ。消えたと思っていた小さな意志は、自分の中にひっそりとあった。

そして祀行の言葉。彼は朱雀に守られていると言っていた。

切れたと思っていた縁は、もしかしたら細い、ごくごく細い糸で繋がっているのかもしれない。


「あれ……」


目頭が熱くなり、ほろりと涙がこぼれ落ちる。

浅葱はかすかに繋がった希望に泣きながら笑った。







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