天満月

□9話
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今日の教室はいつも以上に騒がしい。浅葱は美朱と唯と別れ、自分の教室に来ていた。

時間があまりなかったこともあり、話はそこで終わりとなってしまったからだ。

時間があれば巻物を探したかったが仕方ない。少々思うところもある。巻物は本当に捨てられたのか否か。

祀行自身は触れなくとも、あれが大事な物だと知っているはずだ。

美朱の目の前で捨てるのは、彼女の心に大打撃を与えるだろう。しかし安易に捨てられるものでもない。

ならば、捨てる”素振り”をしたかもしれないのだ。あくまで憶測な上、捨てた女子生徒が誰なのか分からないので、犯人を特定できないが。


「おっはよー!朝からクッソ面白くない噂でいけないよなぁ」

「そうです!そもそも夕城さんは何もしていないのに、みんな面白かしく言うなんて馬鹿げてます!」

「こうやって風評被害が拡大していくってことです」

「あ、おはよ」


朝一番に仲良し三人組が口々に不満を言う。

藤原は不機嫌もあらわに、風霧は逆行でもないのにメガネを光らせて、周防は冷静に分析しつつ口調は厳しいものだ。

浅葱はあいまいに頷きつつ、三人に「気にしていない」と返した。


「夕城さんがそんなんだから、みんな調子に乗るんだって!ここはビシッと言わなきゃ!」

「噂は噂。だいたい私、そんなに軽い感じに見える?」


この三人にまで尻軽に思われているのは辛い。眉尻を下げた浅葱に三人は「全然!」ときっぱりと返してくる。

藤原は「お固いのもうちょっと崩してくれればいい」と軽口を添えてもきた。


「そういうこと。私を知っている人は噂だってわかっているもの。知らない人も私を知ればそんな考えも無くなるわ」

「……甘いです!夕城さん」


風霧がメガネを持ち上げ、いつになく強気に出た。


「甘いことをいっていると足元をすくわれかねません!ここはビシッと!」

「ビシッと?」

「ビシッと……」

「と?」

「……」


無言で固まる風霧に首を傾げるしかない。

何が言いたかったのか分からず目を瞬かせる浅葱に、風霧は「あうあう」と言葉にならない声を出す。

その隣では周防が「頑張れ絵里!」とナゼか応援していた。藤原に至ってはニヤニヤ笑っている。


「と、とりあえず、心配してくれてありがとう?」

「ぶは!絵里の不発に終わった!」

「……そうそう、うまくいきませんか」

「というか、元ネタ知らなかったらこうなると思う」



つまりは今ハマっている漫画か小説のマネをしたらしい。

確かに元ネタがわからなければついていけない。しかし分かったとしても、その無駄に熱いものはいらない。

ちょっと風霧に対しての認識を改める必要がありそうだ。普段大人しい人ほど興奮すると何を言い出すのか分からない。

そうこうしている内に予鈴がなり、担任が教室に入ってきた。

ふとそこで、クラスメイトの心無い言葉を気にせずにいられたことに気づき、浅葱は心の中で三人にお礼をした。
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