天満月
□9話
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美朱がキョトンとした顔で振り向くが、唯は気にする素振りも見せずガシッと彼女の手を掴んだ。
右手に浅葱を、左手に美朱の手を掴むと唯はさらに歩く速度を上げ校舎裏に突き進んでいく。
引っ張られる形で後をついていく二人は、唯の怒りに戸惑うしかなかった。
「ここまでくれば大丈夫か。さて、洗いざらい吐いてもらおうじゃん」
腕を組み仁王立ちで二人――正確には美朱を見る唯の目は怖かった。
「吐くって」
「祀行ってヤツの話から今までのこと全部だよ。どうもこうも、あたしだけのけ者とかしゃくに障るし」
「浅葱も大体知ってるようだし」とじろりと睨まれ、思わず肩を竦めてしまう。
確かにあらかたの事情は知っているし、向こうに行けずとも美朱を通して詳細は把握済みだ。
元青龍の巫女の唯もこちらの事情を知っていてもいいだろう。
そう言えば、美朱は神妙に頷き、高松塚古墳から今までの出来事を話し始めた。
勿論、祀行の正体も含まれている。
彼女の説明で不十分と思えるところは浅葱が補足していく。とはいっても、彼女自身詳しくは分からないので分かる範囲での補足だ。
「……ふーん、なるほどね。それにしても、朱雀がこっちに干渉してくるなんて」
「それくらい切迫してるってことね。そういえば、生徒会室で巻物捨てられたって話本当なの?」
「うん。祀行は触れないから別の生徒会の女の人が窓から……。探そうと思って早く出たかったんだけど」
その前に唯に捕まってしまったと美朱は残念そうに言った。
「探すのならお昼か放課後じゃなきゃ時間が少なすぎるわ」
「そうだよね……」
朝は人の出入りが激しいし、時間も限られてしまう。探すのならば時間が制限されない方がいい。
「探すのならあたしも手伝うよ。それに少し気になることもあるし」
「唯ちゃん?」
「それにさ、いざとなったら今度はあたしがあんたの応援演説してあげるしさ!」
「唯ちゃん!」
「ぎゃぁ!」
嬉しさのあまり飛びついた美朱に、唯は悲鳴をあげる。
見かけ以上に重傷な唯に、美朱の渾身の抱擁は傷口をえぐる行為だったらしい。
そんな二人を見ながら、浅葱もまた少しの違和感に目を細めていた。