天満月

□8話
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彼女はにやにやと笑いながら、最後の一口を頬張りびしっとフォークを立て「赤い石」と言い放った。


「なんだかよくわからないんだけどね、浅葱についてたあの赤い石。
柳宿がペンダントにして持ってたの!大事そうにしまってたんだけどね、それを見る柳宿の目がすっごく優しくてビックリしたんだよ!」

「あれを柳宿が持ってるの?」

「うん。それにね、バケモノからも守ってくれたんだよ。ほら、前に腕輪が守ってくれた時みたいに」

「そんなことが……。まって、それってつまり結構危なかったってことじゃないの!?」


あのバケモノが現れたとなれば、あの鋭い牙で襲い掛かられた可能性がある。

そう言えば、美朱にあのバケモノではなく、かつて星宿にあげたぬいぐるみから触手のようなものが突然出てきたと説明された。

それでも襲われたことに変わりなく、嫌な気分になってしまった。


「ぬいぐるみからバケモノが出るなんて、向こうは異変が結構起きてるのね」

「そうみたい。向こうで魔物が出始めてるって翼宿が言ってたけど、あんまり実感なかったんだけどね」


しかもそのぬいぐるみは星宿亡き今、彼の子供である芒辰が気に入って持ち歩いているという。

危ないのではと心配する一方、あの時鳳綺のお腹の中にいた子供が元気に育っていることに、驚きと嬉しさでなんとも言えない顔になってしまった。


「そのバケモノってまだぬいぐるみに憑りついているのかしら?」

「んー、どうなんだろう?たぶん消えたと思うけど」

「でも確証はないのよね?」


話を聞いていても危ないことばかり続いているようで、一緒にいけない事が悔しい。

せめてみんなの助けになることはないかと考えるも、思いつかずガクリと肩を落とすしかなかった。


「消えるところは見たけど、あの後女官さん操られて襲ってきたりとかあってばたばたしてたし……。
しかも!よりにもよってそんな大事な時に戻ってきちゃったから、みんなのことが気になって仕方ないんだよ!」

「一時間しかいられないんだっけ?」

「そう。芒辰ちゃんの中に魏の玉があるって分かったのに!」

「え!?」


まさかの発言に言葉をなくした浅葱に、美朱は芒辰が生まれる直前に薄青の玉が入り込んだ可能性があると説明する。

生きている井宿や翼宿は戦いの後、戻ってきたときに手にしていたらしいが、死んでいる星宿は彼に近い者の側に落ちたらしいそうだ。

柳宿には確認を取り忘れたとかで分からないとも美朱は付け加えた。


「……向こうは本当に大変なことになっているのね」

「そう!だから早くみんなの所に行きたいんだけど」


向こうの世界ならともかく、現代に生きる一般女子高生でしかないこちらでは身軽にホイホイ行くことも出来ないことは美朱も承知している。

朱雀の巫女という肩書は、向こうでしか通用しない。こちらではごく普通の女の子。

それに朱雀の力が弱まっていることを踏まえると、限界があるのは二人とも分かっていた。


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