天満月
□8話
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「ただいまぁ」
「おかえりなさい」
美朱の声に浅葱は読んでいた本を閉じ、どこか浮かない顔をして帰宅した妹を出迎えた。
とぼとぼと元気のない足取りの美朱に、なにかあったのかと浅葱は目を瞬かせる。
確か魏と一緒だったはず。彼とケンカでもしたのだろうか。それとも向こうで何かあったのか。
「あれ?浅葱だけ? お母さんたちは?」
「母さんたちは電車のトラブルで帰ってくるの遅れるって。兄さんは友達と合コンだって張り切って出かけて行ったわ。
それより夕食どうする?なにか食べてきちゃったかしら?」
「ううん。せっかく魏が買ってきてくれたたこ焼きが、事件現場化しちゃってお腹ペコペコ」
(じ、事件現場化?いったい何をしてたのかしら?)
想像するも、脳内では殺人現場に転がるたこ焼きという名の『ダイイングメッセージ』。
ない。これはない。おそらく、何かトラブルにでも巻き込まれたのだろう。
美朱の行くところ騒動が絶えない。今回もそういったことに巻き込まれたのかもしれない。
「……そう、それじゃ何か簡単なものでも作るわね」
「うん」
短い返事と共に美朱が自室へ消えると、浅葱は短く息を吐き出した。
元気が取り得の美朱の気の落ちようは、気になるもののまずは腹ごしらえになるものを作らなければ。
以前パスタを茹ですぎて冷凍していたと思い出し、浅葱はナポリタンを作ろうと立ち上がった。
ホカホカのナポリタンを頬張りながら、美朱が向こうであったことを話しだす。
話すたびに脱線を繰り返すものの、およそのことは何となくだが理解できた。
まず例の「たこ焼き事件」は噂の転校生が魏を攻撃したことで発生したこと。転校生――祀行斂(しぎょう れん)は天罡の手先であったこと。
バケモノに変化できること。もしかしたら、生徒会長の自殺も彼の仕業であること。
そして、巻物の中では大極山が天罡によって消えてしまい、仲間たちがばらけてしまったこと。
消える前に太一君がヒントをくれ、王宮に行ったことや、そこで柳宿と再会したことも汁を飛ばしながら教えてくれた。
「二年も経ってるから少しは変わってるのかもって思ったのに、全然変わってないんだもん!翼宿はちょっとワイルドになってるけど、柳宿と井宿は本当に前のまんま!」
いつもお面の井宿と比べられても困るのではないだろか。そもそも、お面がなくても年齢不詳な雰囲気が井宿の持ち味なのだから。
「髪も短いまんまだし、言葉もオネエだしさ!あ、でも……」
「なに?」
「んふふ。浅葱愛されてるなぁってね!」
「は?」
いきなりの含み笑いに浅葱は不気味に美朱を見やる。
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