天満月

□5話
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「……要点は掴めたわ。それなら私も協力する。そうね……大鳥さんたちに連絡すれば、その巻物のことくらいは分かるでしょう」


脳裏ににこやかに笑う優男が浮かび上がる。

あの人の情報網は侮れないし、あの人自身博識だ。やや強かさがあり、少し裏があるが。

それでも妹のため、良き友人の魏のため人肌脱ごう。


「ほんと!?ありがとう浅葱!!」

「恩に着るぜ浅葱」


喜ぶ二人にやれやれと肩を竦め、浅葱は腕時計を見た。時間はそろそろ授業終了を差している。

チャイムがなれば、自分たちを心配した友人たちが来るかもしれない。それにそろそろ保険医も来そうだ。

それほど長く話している気分じゃなかったが、意外と話し込んでいたみたいだと笑いあう美朱と魏を見ながらぼんやりと思った。

それにしても、さっきから目の前でベタベタと。なぜだか無性に腹がたつのはどうしてだろうか。

口のへの字に曲げ苛立ちをあらわにしていると、ほどなくして授業終了の合図がなった。

もうこの甘い雰囲気の所にいる気にはなれず、彼女は教室に戻るべく立ち上がる。


「それじゃ、私は戻るわね」

「うん。あ……あのね、柳宿のことなんだけど……」

「……っ。わかっているわ。話に出てこなかったんだし、彼には会っていないのよね」

「うん、ゴメン」

「……謝ることなんてないわ。きっと自分の家にいるから会えなかったのよ。
そうね……でも彼に会ったら私は元気だからって伝えてくれる?」

「伝えるよ!それにいまの浅葱のこと、いーっぱい報告するし、柳宿のこと浅葱に報告するから!」

「ええ、お願いね」



柳宿と聞いて一瞬言葉が詰まった。きっと美朱にも魏にも分かってしまっただろう。それでも平静を装いなんとか伝言を託す。

浅葱はそのまま振り返らずに保健室を後にした。



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