天満月

□閑話4-2
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「ついたわよ」
「ほあー、おっきいお店だねー」
「そういえば、柳宿の実家は有名な衣服問屋と聞いていたな」

柳宿に案内された織物街。その区画の中でも一番に大きな店へと足を踏み入れた美朱たちは、その建物の大きさに驚きの声を上げた。
そんな仲間たちを引き連れ、柳宿はひっきりなしに人が出入りする店口を突っ切り奥に進む。
あの戦いの後、実家の仕事を手伝っていたので、慣れ親しみあれこれと声を掛けられてくる店の人を笑顔で軽く返し、柳宿は目的の部屋までさらに奥へ進んでいく。
その姿を仲間たちは興味津々に見ては、あれやこれやとうるさくはやし立てているのは無視することにした。
今は人目がある。ここの家の者として、乱暴な素振りは出来るだけ控えなければ、店の信用にも関わってくる。客商売は信用第一なのだ。
店内を突き抜け母屋に出ると、その足は母屋を避け中庭へと向かっていく。そこで仲間たちは、おや?と首を傾げた。
てっきり母屋で家族と暮らしていると思っていた。

「ねぇ柳宿。中に入らないの?」
「まあね。あっちは両親と店を継いだ兄貴夫婦が住んでんのよ。で、あたしはこっち。
ほら、一度家を出た弟が出戻りで一緒に住んでるなんて外聞わるいじゃない。客商売だからその辺も気をつけなきゃいけないのよ」
「へぇー、そうなんだ」

納得したと頷いた美朱とは別に、翼宿は「でも結局同じところに住んでる」とこぼし、無言で振り向いた柳宿に沈められた。人の目がないので遠慮なく制裁を加えることができる。
そんな二人に星宿と井宿は毎度のことと呆れていた。

「ほら着いたわよ。狭い所だけどどうぞ」

そう言うと柳宿は仲間たちを離れの中に招き入れた。
ここは元々隠居していた祖父母が使っていたもので、今は自分が居候として住まわせてもらっていた。

「なんや、寂しいとこやな」
「柳宿の住まいとしては質素だな。いや、物が少ないのか?」
「造りもどこか素朴なのだ」

随分な言われようだが本当のことだからと肩を竦めるだけに留める。
各々が珍し気に見回す室内は、井宿が言う通り素朴な造りをしている。星宿と翼宿が寂しく質素というのは、物が極端に少ないからだろう。

「そりゃそうよ。ここは元々祖父母が隠居するために造らせたものだし。それにあたしだってずっとここに居座るつもりなんてさらさらないもの」
「え?柳宿、お店手伝わないの?」
「手伝いはするわ。でもここには長居はしないっていってんの」

物が少ないのは、出ていく時にできるだけ身軽で行けるようにするためだ。だからこの部屋には必要最低限の日用品しかない。
今の住まいを昔の自分が見たら「なんてとこに住んでんの!?」と驚くかもしれないと思いひっそりと笑ってしまった。
そんな部屋の中を歩き、小物を仕舞っている棚の戸を開け目的の物を取り出すと、美朱を呼び寄せ彼女の手の上に乗せた。
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