天満月
□閑話4−1
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「ほらおかわりきたわよ。これを食べて元気出しなさい」
「うん……」
「なんや足りんかったか?」
「……デザートも欲しい」
「もう食ったんかい!……ほんま食い気多い女やなぁ」
美朱を挟んで二人がかりで彼女を慰めている隣で、事の成り行きを見ていた井宿は自分が頼んだ料理を咀嚼しつつ三人の会話に口を挟んだ。
「けれども、柳宿の言う通りなのだ」
「うむ。ここは一先ず、鬼宿の問題は置いて、柳宿の実家にあるという玉を手に入れた方がいいのではないか?」
「あ、そうか。それもあったんだった」
魏のことや玉のこと。考えるべきことは多い。星宿の提案に少しだけ考えた美朱はそうすると頷いた。
「そういえば、帰る時間て大丈夫なの?」
「え?」
「ほら、この間いられる時間が限られてるっていってたじゃない。ここで時間潰してらんなくないかしら」
「あ……」
柳宿の言葉に再びしゅんと肩を落とした美朱に、他の仲間たちは顔を見合わせる。
「あたし何かヘンなこと言ったかしら?」
「さぁ?分からないのだ」
「もしや鬼宿のことが気がかりで落ち込んでしまったのでは」
「それか飯がまだ足んなかったとちゃうんか?」
頭を突き合わせ、こそこそ話し合う。その間にも美朱はしょんぼりとしつつ、残りの料理を平らげている。
みんな向こう側のことを知らないので、何が彼女の気に障ったのか分からず首を傾げるしかない。
美朱が肩を落としたのは、学校で生徒に襲われた時に朱雀星君が入っていた時計が壊れてしまい、元の世界に戻れるか分からないからだった。
そして壊れてしまったというのに、こうしてこちらの世界に来たという疑問。
どうして来れたのか。どうやったら帰れるのか。何もわからないのに、こうしている間も魏に魔物の手が伸びているかもしれない不安。
それが再び脳裏をよぎり、美朱はひたすら注文していた料理を食べ続けた。
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