天満月
□12話
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美朱たちが行ったという神社に来ては見たが、これといってなんの変哲もない普通のお社だった。
近くの売店や社務所にも顔を出し、なにか手がかりでもあればと思ったけれど収穫なし。
かわりに漫才兄妹として兄と妹が覚えられていた。なぜだ。
ほかにもいろいろと探索したけれど、手がかりなどいっこうになく浅葱はしょんぼりと肩を落とし大通りから少し外れた東屋のベンチに座った。
蒸し暑くてじっとりと汗が流れてくる。土手の先に小川があり、そこからそよそよと風が生暖かい吹いてくる。
川近くなのにちっとも涼しくなく、浅葱は深々と息を吐き出した。
「暑い……」
暑くてとけそうだ。でも美朱の行方の手がかりが欲しい。もう少し休んだら、もうちょっと足をのばそう。
兄の話では観光地巡りはここ一帯らしいが、もしかしたら持ち前の好奇心でもっと遠くへ行ったかもしれない。よし、と意気込み缶コーヒーを一気飲みする。
高校に入り伸ばしている髪を一度結い直し、気持ちを入れ替える。柳宿に梳いてもらっていた髪はもう、肩を過ぎてしまった。
もし彼がここにいて、この長さを見たら何というのだろう。
「似合うって言ってくれるかしら」
自身の呟きに苦く笑う。もしそうなら、どれだけ嬉しいことか。目を閉じて瞼裏に柳宿を浮かべる。
記憶にある姿のままの柳宿が「アタシの目に狂いはないわ!似合わないわけないじゃないの!」と胸を張り笑っていた。
「美朱を見つけるんでしょ。諦めんじゃないわよ!」とさらに背中を押してくれる。
自分の思い描いた柳宿だけど、本当に彼に励まされている気がして浅葱は「うん」と頷き返した。
「よし。隣の市に行ってみよう」
まだ日は高い。この分なら隣の市に移動しても聞き込める時間は十分だ。
美朱たちはきっと見つかる。見つけて見せる。浅葱は来た時とは逆に顔を上げ、東屋から歩き出した。
その数分後、その東屋に『周防の従兄』が休憩しに来たことなど知らずに。
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