天満月
□9話
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浅葱は朝早くに家を出て唯の家に来てた。
昨日彼女が怪我をしたと聞いていたが、家のこともありお見舞いに行けずじまいで唯のことが気がかりだったからだ。
玄関で顔を出した唯は、ものの見事に全身ガーゼと包帯で痛々しい姿だった。元気な様子を見て安心したが、それでも傷が残ったら大変だと顔を顰めてしまった。
そんな浅葱に、唯はケロリとこともなげに「その時はその時」と言って笑い飛ばしていた。
ただし、こんなことになった背景に美朱のことがあると気づいているようで、あとで問い詰める!と意気込んでいた。
ちなみに美朱は昨日のことで両親――主に母から――説教され気力が尽きたのか、今日は自分よりも遅くに家をでるらしく置いてきていた。
自分たちが学校に着くころには美朱も登校しているころだろう。
唯と並んで登校するなんて小学校以来と笑いながら門を潜れば、ちらほらと自分たちを見る生徒がいることに気づき二人は顔を見合わせた。
「もしかしてあたしの包帯のせい?」
「……うーん、心なし私の方を見てる気がするんだけど自意識過剰かしら?」
首を傾げつつとりあえず歩く。危害を加える素振りは見当たらず、こそこそと囁く声が耳に入ってきた。
「ほらあの子。妹が生徒会長に迫ったんだって」
「妹が妹ならあの子も陰でやってるかもね」
「かまととぶって、裏では男をとっかえひっかえってやつ?」
「顔好みだし、オレ相手にして欲しいー」
(な、なにそれ……)
美朱が不祥事を起こしたことは知っていたが、自分にまで飛び火するとは思っていなかった浅葱は、顔を青ざめさせ絶句するしかなかった。
事実無根な噂に言葉も出ない。
表情を硬くする浅葱とは逆に、唯は眉を顰め彼女の手を取ると速足で歩き出した。
「ったく、べちゃくちゃとうるさい!浅葱行くよ!美朱探して色々聞かなきゃいけない事あるし!」
「え?ゆ、唯!?」
噂の自分が憤慨するならともかく、唯が怒るのが分からなくて戸惑いつつ少し駆け足でついていくしかない。
(もしかして私の事心配してくれてるのかしら?)
もしかしてではなくそうなのだが、唯のただならない怒気に口にはしない。
それでもさっきまでの不安がなくなっていることに、僅かに表情を緩めた。
「美朱!」
「唯ちゃん!怪我大丈夫なの?浅葱は引っ張られてるし……って、うわ!」
校舎に入ろうとしていた美朱を見つけた唯がきつい声で呼ぶ。