天満月
□閑話2-2
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芒辰が星宿の前にたどり着いた刹那、まさかの事態にみんな驚き言葉をなくした。
そのまま通過するかと思えた芒辰に、星宿が乗り移ってしまったのだ。
一瞬光ったと思ったのもつかの間、星宿の姿が掻き消え、代わりにはっきりとした意思をみせる子供がそこに立っていた。
「これは……」
「えーと。星宿、だよね?」
「乗り移ってしまったのだ……」
ペタペタと実体を確認している子供にどういえばいいのか。美朱の確認を取るセリフに誰も返さない。
井宿はありえない事態に現実逃避しているようだ。
「んなことあるかい。ほれほれ、本当はこれが本性なんやろ」
「翼宿!私の子供に何をする!!」
「うげ!?」
芒辰の頬を突き揶揄(からか)っていた翼宿の頬に、芒辰の可愛らしい子供の手が飛ぶ。
バチン!と小気味良い音が響き渡り、芒辰は子供の力とは思えない威力で翼宿の頬をひっぱたいた。
「痛い……」
痛覚で自分は肉体を――子供に乗り移ったこと実感できたのか、星宿はじっと己の手を見つめた。
そしてはっと顔を上げると、二歳児とは思えない速さで部屋を出ていく。
残されたのは展開についていけない侍従たちと、星宿が憑依したことに驚いている柳宿たちだ。
「え?どうしよ。星宿、どこに行っちゃったんだろ」
「……おそらく鳳綺の所よ。あたしたちも行きましょう」
あのまま突撃したとして、鳳綺が星宿に気づくのか気にかかる。
それに……と、柳宿は投げ捨てられた形で床に落ちていたぬいぐるみを拾う。――魔物はもうこの中にはいないようで、普通の人形だった――。
(それに子供の身体に長い時間いられるとは思えないわ)
星宿が憑依したことで、あの子供にどれくらい負担がかかっているのか分からない。
おそらく短時間しかいられないだろう。その間に、鳳綺に事情を説明し、彼ら夫婦を本当の意味で再会させてあげたい。
星宿の後を柳宿たちが追う。柳宿は妙な胸騒ぎを感じていた。
皇后の部屋についた彼らが、夫婦の再会に妙な気分になるのはもうすぐ。
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