天満月
□4話
1ページ/8ページ
「旅行?」
「そうなのよ。ばたばたしてて、新婚旅行まだだったでしょ?
あんたたちのことも、落ち着いてきたし丁度いいわよねって話しててね」
いつも通りの夕食に、母が近々旅行へ行こうかと言い出し、浅葱はキョトンと目を瞬かせた。
確かに母の言う通り、自分たちの入学式やらで忙しく、さらに父の店のことでもばたばたしていたので式をあげただけだったのは覚えている。
そのために旅行はひかえていたのだが、やっと一段落したので行くことにしたらしい。
「いいじゃん、旅行!どのくらいの予定なの?」
美朱が大口を開けスパゲッティをつっこみながら聞く。母はにこにこしながら答えた。
「三日間くらい九州へね」
「あら、それならゆっくりしてきてね。うちのことは心配しなくていから」
「そういってくれて有難いわ。美朱たちだけじゃ心もとないしねぇ」
「お母さんヒドイ!」
「どこがだ!お前のリョーリ食えたもんじゃねぇだろうが!」
美朱の抗議に奎介が反論する。それに浅葱は無言で頷いていた。
美朱は料理クラブに入っているが、成功率がすこーし上がっただけで、いまだに劇物を作りあげている。
誰だって母がいない三日間、失敗する確率が高い料理を食べようとは思わないだろう。
「……とにかく、楽しんできてね。本当にうちのことは気にしなくていいから、お父さんと思い出作ってきて」
滅多にない優しい微笑みに母も安心し、よろしくね。と返した。父も同様に笑いながら頷く。
これで母の心配は多少軽減されただろう。
チラリと美朱を見れば、さっきまで膨れていたのが、今は何かに胸をときめかせ目を爛々と輝かせていた。口にはパスタを突っ込みながら。
きっと母がいないことで、魏のところに気軽に行けるとでも思っているんだろう。
妹ながら、なんとも単純な考えをしている。母がいないのだから、それこそハメを外すのはひかえてもらわなくては。
はぁと深い溜息を吐き、浅葱は再び食事の続きを始めた。
――――
.