あの日の記憶

□序章
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―火の国内のとある小さな町
















そこは人々が多少なりと暮らせど皆 身なりは貧しい者達ばかり




貧困に苦しむその町全体はどこか寂しげにひっそりとしてた







色で例えるならば灰色のセカイといったところだ












そして 町のある小さな路地裏に目を向ければ たった一人で踞るように座る幼い子供がいた


















『………』





幼子は痩せた体をボロボロの衣服に身を包み 力無く薄暗い路地裏の地に座り込む




不気味と言っていい静けさのする僅かに湿気で陰気な薄暗い路地裏で幼子の小さな存在は当然の如く溶け込んでいた





銀色をした長く伸びた前髪から
覗く臙脂の眼は酷く虚ろで虚空を見つめる








ぐぅー……




腹が鳴った




痩せた幼子にとってそれはいつものことだ






『……ぁ…』




もはや 声を出す力すら小さな体には殆ど残っておらず か細い声しか出てこない






だが 僅かな力を振り絞り何とか壁つたいに立ち上がる




歩き出すそうとするが細い足は体を支えきれず 傍に放置されてたゴミなどを巻き込み倒れた






ガシャン!





けたたまし音が路地裏に響いた





それでも道行く人々は一切見向きもせず幼子が倒れている路地裏の傍を過ぎ去って行く






まるで 幼子だけがこの世界から切り離されたかのようだ





『………』




倒れたままの幼子はやはり虚ろな生気のない眼で何もない どこか遠くを見つめる






ザッ…


「おい 大丈夫か?」




頭上からふと声がした





ゆっくりと見上げれば老人が自分を心配そうに見下ろしていた




「火影様…っ」


「一体何を…?」



傍にいた三人の男達に「火影」と呼ばれた老人は幼子を優しく抱き上げる









あたたかい…











今まで感じたことのない温かな
ぬくもりに抱かれた幼子は次第に意識が遠くなっていく







意識を完全に閉じる間際に見えたのは 老人の傍にいた男達の額に輝くある額当て








その形は木ノ葉だった















ズキッ…




頭の奥に小さな痛みが走った






それと同時に幼子の意識は完全に黒い闇へと沈んだ























全てはこの時から動き出した





だが 物語の幕が開くのにはまだ5年の年月を必要とする―




END

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