―奈落から見上げる月―

□―闇を覗く深淵―
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揺れる黄昏の中、ただ 彼は唇を歪め、じっと僕を見ていた。


『―闇を覗く深淵―』


穏やかな午後。気の抜けそうな鐘の音と共に 校舎内に生徒達のざわめきが広がり出した。6時限目の授業が終わったのか…と ぼんやり思い、僕は応接室の椅子から腰を上げた。
下校中に何か面倒事を引き起こすふざけた輩は 毎日絶えない。いい加減学習すれば良いのに…と思うけれど、それを毎日飽きもせず噛み殺す僕も 相当物好きなのかもしれない。
開けていた窓に寄ると 外からの風がすぅっと横をすり抜けた。…僅かに、寒い。これは何か一枚羽織って行くべきだと判断して ソファーに投げてあったベストを着、ネクタイを締めた。

「・・・っ」

普段はつけないそれだが ベスト…つまり現並中の制服を着る時は 自然とそれに手が伸びてしまう。…もっとも、何度つけても あまりネクタイの感覚は好きになれないけれど。
服に仕込んだトンファーを取り出し、一度クルリと回す。馴染んだ感覚。それに一瞬目を細めてから 僕は応接室の扉を大きく開いた。…聞こえて来る声とは裏腹に この部屋の前に人気は無い。群れる事しか出来ない彼らは 此処を恐れて通れもしないから 当たり前だけれど。



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