―幻想空中王国―

□《 捕ラワレタノハ… 》
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―――再び目覚めた世界

その 視界を占めたのは・・・








《 捕ラワレタノハ… 》







―――初めに感じたのは 血の匂いだった。

次に感じたのは 粘着を帯びた水音。

そして…人の気配。


荒い息遣いと立ち上る血の臭いが
『彼女』が何かしらの怪我をしていることを知らせていた。



――緩やかに開かれる瞼。

数百年か 数千年か。

『長過ギル闇』を越えて来たその『緋き瞳』に映った 久方振りの光は
緋い…死の色をしていた。


くすぶる『焔』。


それは矢尻から燃え上がり、
少女の衣服にまで毒牙を伸ばし…確実に
彼女を死へと誘っていた。


彼女の胸から、溢れる血潮。

それは私を封じる『蒼氷の石』をも濡らし
『古の聖者』が施した封印を跡形もなく消し去っていた。




「―――、… ・・・っ」




固まっていた声帯はすぐには音を紡がず
口をついたのは 唯の吐息だった。




「――オ前… 名、マ‥エハ‥?」




やっとの事で紡いだ言葉に
少女は静かに応えた。




「…ismy Layla」




『美しき夜』の名を名乗った彼女は
私に怯む事無く 此方を見た。




「…maa'ismuka?‥‥?」



誰ぞや、と問う声に
私は貼り付く舌を剥がして 口を動かす。



「…sh‥‥t…――」




掠れたそれに少女は首を傾げ 眉を顰めた。




「…Shaytan・・・?」




『悪魔』と呼ぶ彼女に対し
私は自嘲気味に嗤った。




(・・・そうか、私は…もう‥‥)




目を閉じ 息を長く吐いてから
私は彼女の目を見た。




「…君ハ・・・生キタイカ?

喩エ…『人トシテ 死ヌ事ガ許サレナイトシテモ』・・・」




私の問いに

彼女は強い『焔』を宿した瞳で 応えた。



「『それでも 私は・・・』」




――――その声が終わるか終わらないかのうちに
私は『檻』の中から手を伸ばし、彼女を抱き締めていた。




確かな温もり。

遠い過去に忘れた 大切な人の優しさ。




(…嗚呼 私は・・・私は

これを、待っていた・・・―!!)




私を必要とする者

私を・・・此処から 連れ出してくれる者。

この暖かな少女を 私は待っていた・・・!!






(‥これでは…どちらが『悪魔』か、わからないな・・・)






―――――本当ニ 捕ラワレタノハ ドッチ・・・?











FIN

















本当ニ捕ラワレタノハ 私・・・
本当に捕らわれたのは 私・・・


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