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□真夏の大魔王
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ある平和な夏の夜。
外からは虫達の声。運命の相手と出逢うために、命の限り奏でる美しき合唱。
窓からは涼しい風が吹き込んできていて、心地が良い。
特番の心霊スペシャルを観ながら、大好きな酒を飲みつつ、小さな幸せを感じる。
窓を開けている割に、外からは虫達と風の音しか聞こえてこない。
他の部屋の住人達も、この心地の良い夜を各々堪能しているのだろう。
そんな平和な夜に、大遅刻してしまった恐怖の大魔王が舞い降りた。
TVでやっている心霊スペシャルを半信半疑で観ていた長宗我部と、その横でクマちゃんクッションを抱きかかえた毛利はこの夜を堪能していた。
番組は胡散臭い話でテンコ盛り状態。スタジオからは時折、大袈裟な悲鳴が聞こえる。
いかにも、という雰囲気をレポーターの男が声を潜めるという方法で演出する。
レポーターが凄んだり、現場から逃げる素振りを見せる度に、毛利はクッションを抱き締める。
最早、原型を留めていないソレは彼の腕の中で妙な形になっていた。
午後10時、漸くその番組も終わり、毛利はその場を立ち上がった。
部屋から出ていく彼がこれから何をしに行くのか、長宗我部には分かっている。
彼はこの番組の間、ずっと我慢していたであろうトイレに行ったのだ。
番組の最中は怖くて行けなかったが、既に軽快な音楽と芸人たちの笑い顔が映されているTVで気を紛らわせていた。
長年、彼とは付き合いがあるが、未だに普段とのギャップに違和感を感じてしまう。
しかし、その違和感を口に出してしまえば、もれなく暴行という名の暑中見舞いを貰ってしまうので、長曾我部は口に出さずに居た。
一人になってしまった部屋で、大人しくバラエティ番組を観ながら酒を片手につまみの柿ピーを食べる長宗我部。
まず、そんな彼の元に恐怖の大王は姿を表した。
カササ・・・
「ん?」
視線をあまりTVからずらさずに、柿ピーを取っていると、視界の端で何か動いた気がした。
外から吹き込む風が柿ピーの袋を揺らしたのかと思い、気にせずに盛り上がってきた番組に集中した。
芸人たちが一発芸でゲストを笑わせている。
カササ
何か、聞こえた。