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□「我は悟った」
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「我は悟った。」
中国地方を治めている毛利元就が突如、そう言い放った。
雲一つすらない空の下、久々に会った彼はそれだけ言ってその場に座り込んでしまった。
「おい、何を悟ったってんだ?」
彼が何をしたいのか分からなくて、四国を治めている長宗我部元親は不安そうな顔で尋ねた。
毛利が妙な言動や行動をする時は、大抵その先によくない展開が待っているのだ。
その事を幼い頃から知っている長宗我部は不安を隠しきれない表情で彼の横に腰を下ろした。
植物のように緑の衣装を身に纏った彼は、足元に咲いていたたんぽぽと同じように風に吹かれながら答えた。
「大福は、苺大福よりも豆大福の方が旨いということを・・・我は悟ったのだ。貴様には分かるか、長曾我部よ。」
「いや、全く何言ってんのか分かんねえ」
普段よりもかなり穏やかな口調で答えられたが、その答えがあまりにも意味不明すぎて長宗我部は首を傾げた。
「何と・・・貴様の脳はやはり、このたんぽぽと同様よ。綿毛のように軽い」
足元に咲いていたたんぽぽの隣にあった綿毛の方を、ぶちりと音を立てて抜いて、息を吹きかけて綿毛を散らす。
綿毛を全て飛ばし、禿げたたんぽぽの茎をぽいとその場に捨てて、毛利は再び黙り込んだ。
植物と同じような緑の衣服を身に纏った彼は、大好きな日輪の光を浴びて光合成でもしているのだろうか。
やはり様子がおかしい彼から逃げようと、長曾我部は腰をあげた。
「何処へ行く、長宗我部。」
「いや、その・・・」
咄嗟に上手い理由が思いつかず、再びその場に腰を下ろす。
下手に嘘をついても、毛利は無駄に頭の回転が早いため、すぐにバレて後から何をされるか分からない。
そうなるよりは、この奇妙な状況のままの方がまだマシだと思ったのだ。
大人しく腰を下ろし、ぼんやりと流れいく雲を目で追っていた。
ふわふわと流れていく雲は様々な形をしていた。
そう言えば、この前、バナナの形をした雲を目で追っていた石田がよそ見をしていたせいで足を滑らせて穴に落ちたらしい。
この情報を聞いた時、長宗我部は耳を疑った。まさか、自分の友人がそこまで阿呆だとは思わなかったのだ。