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□ボウズの日だって
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──ザザー…
『親ちゃーん』
「なんだ?」
『釣れないねー』
「そうだな」
風も無く、波もない穏やかな海。
私と親ちゃんは釣りを楽しん…でないのよ、私は。
朝から釣り糸垂らしてるのに、何も掛からない。
要するに暇なわけで。
『親ちゃーん』
「なんだ?」
『釣れないねー』
「そうだな」
会話もさっきから同じ事の繰り返しで、ホントにつまんない。
いつもならがっちり大物を釣ってくれる親ちゃんの釣竿。
だけど今日は不機嫌なのか何も反応してくれなくて。
『親ちゃん、膝に座っていい?』
「あぁ、来いよ」
ちょこん、と膝の上に座ってみても何も反応なし(座っただけで釣れるわけないか)
『…今日は一匹も釣れないね』
「まぁな。そんな日もあるだろうよ」
『でもさ、いつも親ちゃんと釣りに来た時は大物釣れてたのに今日はおかしくない?』
「あー…」
『?』
親ちゃんは少しバツが悪そうに頭を掻いて、ぼそぼそと言葉を吐いた。
「あのよ、本当は今日の海じゃ魚は釣れねぇんだ」
『なんで?』
「潮の流れが早ぇし、かもめもいねぇだろ?」
『確かに…でも親ちゃんは海の男だよね?それ知ってて連れてきたの?』
「すまねぇ。いつも俺の釣りなんか見てても面白くねぇだろ?だから今日みてぇにのんびりする日もいいかと思ってよ…」
親ちゃんなりの気遣いだったのか。
なのにつまんないとか思っちゃうなんて嫌な女だな、私。
『親ちゃんありがと』
「? おう」
親ちゃんと一緒にいれば別に魚が釣れなくてもいいんだ。
一緒にいればつまらない自分で吹き飛ばせばいいんだ。
『ち、親ちゃん引いてる引いてる!』
「うぉっ!?」
END