弐拾萬打感謝企画

□一歩前進
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【一歩前進:わずかに前に進むこと】


・・・・・・・・
「あ、雨…」
「げ。傘持ってきてねぇよ」
自宅近くの最寄駅。今日"も"元親先輩一緒に帰宅していたらポツポツと雨が降り出した。
「あたし、折りたたみあるんで使いますか?」
「おう、悪い」
利用する駅は元親先輩と一緒。だけど駅から程近い私とは違い、先輩のお家はもう少し先だと言っていた気がする。カバンからシンプルな折りたたみ傘を取り出すと開く間もなく"貸せ"と先輩にとりあげられてしまった。

「あ、あたし、もうすぐ家なんで、ソレ使ってくださいね」
「おー、ンなら家まで送らせろ」
「は、いいですよ別に。あたしの家すぐそこなんで」
「俺が嫌なんだよ」
傘を開き、"案内しろ"と半ば強引に道を促す元親先輩は私の腕を掴むと強くなりかけた雨を避けるように優しく自分の体の方へと寄せてくれた。

先輩のこんなさりげない行動を意識するようになったのはいつからだろう。すぐ手を繋ぎたがるのは相変わらずだけど、指を絡めるのが苦手と言ってからは軽く握るだけにしてくれた。だけど、慣れって言うのは恐ろしい。以前の私なら手を繋いで歩くだけでも恥ずかしかったはずなのに、傘のお陰で繋げなくなった掌がほんの少し寂しく感じ、無意識のうちに…先輩の制服を掴んでしまっていた。
「…へぇ」
「?」
「お前にしては可愛いことしてくれるじゃねぇの」
「!(ば、ばれてる…っ)」
「あ、まだ離すんじゃねぇぞ」
「〜っ」
くつくつと笑いながらからかう先輩のお陰で、私は顔を真っ赤にしながらもその手を離すことが出来なくなる。結局そのまま羞恥と戦いながらアパートまで帰宅する羽目になってしまった…。

見慣れたアパートの入り口に到着した時には、雨はいよいよ本降りへとなっていた。
「んじゃ、コレ借りて行くな」
「あ、はい、どうぞ」
アパートの軒下へと移動すれば、傘をさす元親先輩の肩が雨に濡れて少し色濃くなっていることに気がついた。
「どした?」
「ぁ、いえ…」
だけど私を雨から庇ってくれた先輩に何か気の効いた事を言うことも出来なくて「…ここまで送ってくれて、ありがとうございました」と頭を下げるだけで私にとっては精一杯だった。
「…名前」
「はい、」
先輩がふいに私の名前を呼ぶ。きょとん、と先輩からの言葉を待つ私に、珍しく目を泳がせる元親先輩。
「…、」
「?」
ちらり、と周囲の確認をしたかと思うと、手にした傘を自分たちの姿を隠すように傾け
「手ェ離さなかったご褒美な」
「ぇ、……っ!」
私の唇に、自分のソレを軽く押し付けていった。
「じゃあな」
「ぁ…」
呆然と立ち尽くす私に、片手をあげて何事もなかったかのように先輩はアパートから離れていく。
(…、)
思わぬ出来事に、何が起こったかもわからず動きを止めた私の頭は
(せんぱい…香水つけてたんだ…)
距離が近づきすぎたからこそ知った事実を、ぼんやりと思い浮かべることしか出来なかった。


・・・・・・・
◇元親が男慣れしていないヒロインちゃんに初ちゅうしてしまうお話。(唯様よりリク)
bgm?もちろんmy first kissですよね。はじめてーのちゅー。きみとちゅー(←)つか、ちゅうの描写むずい(どーん)この一言に付きますですorz唯さま、どんな感じでしょうかorz純粋って言葉が一ノ瀬の脳内には欠片も残っていないことに気がつかせて戴きました。またどうぞお付き合いください。企画参加ありがとうございました!


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