弐拾萬打感謝企画

□不協和音
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【不協和音:とけあわず不安定な感じにひびく和音】


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今日の放課後は何かがおかしかった。"名前を知らねぇか"と突然尋ねてきた片倉サン。この人にバレているのはわかってはいたが静観していた人がいきなりどうしたんだと思えば、真面目で目立たないタイプのアイツが片倉サンの授業に出なかっただけではなく、午後から姿を見せていないなんて俺でも信じられないことを告げられた。

だが、そのすぐ後に現れた当の探し人は、俺にも片倉サンにも何も言わず一人で何かを抱え込んだままこの時間まで連絡を取れないでいる。

すっかり夜も更けた午後10時。彼女の携帯は呼び出し音が響くばかりで、出る気配が全くない。さすがに放っておく気にもなれず直接彼女の部屋まで足を運んでみたのだ。

「名前」
「…先生?」
インターホンのあと、扉越しに現れた彼女の気配。呼び掛けに応えてくれたことに少しホッとしたが扉が開く気配は一向にない。
「あー…っと大丈夫か?」
「…はい、だいじょうぶです」
「顔見せてみろ」
「…や、いま、ひどい顔してるんで…」
「関係ねぇよ」
「あ、あいたく…ないん、です…」
「…勝手に入るぞ」
正直、拒まれることは予想していた。車の鍵と一緒につけていたこの部屋の鍵を取り出し躊躇無く開ける。玄関から少し離れたところにいる彼女は思った通り、俯いたままだった。
「携帯、気付いてたか?」
「…すみません…」
「名前」
安心させるように名を呼ぶが、彼女の緊張は溶ける気配が無い。
「…あの、」
「ん?」
「…」
「…なんだよ」
「今日は、かえってもらえません、か?」
もう今にも泣きそうと言うか…今までも泣いていたんだろう。掠れた声に、引きつるような呼吸。少しだけ見えた頬は濡れているようにも思える。
「何があった?」
「…なにもないです」
「嘘つけ。何も無いワケねぇだろ」
「なにも、…」
「話してみろよ」
「…」
「名前」
「、ほんとに何も…」
「お前な「…っだから、何もないんです!!もしあったとしても先生には言いたくないし、絶対に言わない!だから帰ってください!!」…!」
こちらを向いた頬はやっぱり濡れていた。目も瞼もどれだけ泣いていたのかわからないぐらいに赤い。

「そうか…」
コイツから頼られないことが拒否されたことが、自分の冷静さを失わせたんだと思う。
「もう好きにしろよ」
大人気ないなんてわかっている。そのまま部屋から出たのはいいが、大して厚くもない扉の向こうから聞こえる彼女の嗚咽に、たった数秒前をどれだけ後悔をしてももう遅かった。



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◇彼女を泣かせるぐらいの喧嘩をするお話。(ナマ子様リクより)
わっほい、元親先生が怒るってどんなシーンですかね?ってとこから妄想はスタート致しました。前後のお話の展開としてぜひともお付き合いいただけたらと思います。企画参加ありがとうございました!!


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