オリジナル

□本編
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大陸の中央に位置するトルナスタ国。
その城の一室で、その国の王子が今まさに、窓に足をかけ、脱出を試みていた。
「・・・なにしてるんですか、ジオナ王子。」
扉を開けて、声をかける兵士。
「や、やぁ、アルク君。いや、ほら、いい天気だし、ちょっと散歩にでも行こうかな〜、なんて。」
ジオナは乾いた笑い声を出しながら、アルクに許可を求めるように両手を合わせ、オマケのウインク。
「いや・・・ウインクされても困るんですが。」
「・・・だよね。」
ジオナはあきらめたように窓から離れる。
少し落ち込んだ様子を見て、アルクはため息をついた。
「もう少しこう・・王子の自覚っていうものはないんですか?」
「ないねぇ。」
「即答しないでください。」
どうしてこの人はこんなに王子らしくないのだろう。
アルクは、いつもの事ではあるが頭を抱える。
そんなアルクの心中を慮るようなジオナではなく。
「で、何の用だい?」
「あ、そうでした。東のフィレンツィア聖共和国から連絡です。『こちらの国から魔王が逃亡した可能性あり。周辺諸国は気をつけたし。』とかなんとか・・」
「逃亡?するの?お強い魔王様が?」
フィレンツィア聖共和国といえば、「領土拡大より魔王討伐」がスローガンになっている大国だった。
別に魔王は共和国のどこかに潜んでいる訳ではなく、大陸内を自由に動き回っている。
「それを『逃亡』って言うかい。」
「共和国の人間からすると、言うみたいです。」
へぇ、と言って、ジオナは興味なさそうに近くにあった本を取る。
「まぁ、そういう事みたいですから、王子も気をつけてくださいね。」
「あー、はいはい。気をつけますー。」
棒読みである。
アルクはまたため息をつき、
「王子に何かあったら、護衛の私が責められるんですからね。人の話聞いてください。本置いて。どこ見てるんですか。ちょっとー?」
「いー天気だなー。」
全て無視である。
しばらく窓の外を眺めていたジオナは、城の近くにある森に目を移す。
「・・・ちょっとくらい良いと思わない?」
「何がですか。」
「外出?」
「ダメですよ。」
「これじゃあ奴隷と変わらないじゃないか。」
「ダメなんです。」
「・・・ケチ。」
「お庭なら自由にどうぞ。」
どんなに何を言っても冷静なままなアルク相手に、ジオナは退屈そうに「分かったよ」と呟くと部屋を出て行く。
慌てて後を追うアルク。
「ちょっと、どこ行くんですか。」
「お手洗い。お茶入れといてよ。すぐ戻るから。」
そう言われてアルクは仕方なしに、部屋に戻ってお茶の準備を始める。

数秒後。
「お手洗い」や「すぐ戻る」は、脱走時の常套句だった事を思い出したアルクは、全力でジオナの後を追い始めた。
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