雨音が聞こえる

□四
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空のバックを地面に置く。
折れた刀の柄はとりあえずそのまま持っとくことにした。


『やり合う前に1つ聞いていーかな』

「んあ?質問多い奴らなー」

『まーまー これで最後だから』

「…なんらよ」

『あなた、ナリ変わってない?
ツメのびてるし…いつ変装したの?』



城島はもとからケモノみたいな雰囲気だったけど、もう今はケモノそのものって感じになってた。


カベをはねまわる前まではそんなんじゃなかったんだけどなー




「ゲ……やっぱ天然…」


また城島のつぶやきは聞き取れなかった。








「まーいーや教えちゃう
ゲーム機ってカセットさしかえるといろんなゲームできるっしょ?

それとおんなじ」



そう言って城島が取りだしたのは、どう見ても動物のものだろう上顎の歯、歯、歯。



「カートリッジをとりかえると、いろんな動物の能力が発動するわけよ」


彼は取りだした歯の中の1つをあたしの前でつけてみせる
と、すぐに彼の体はメキメキと音を立てながら変化しはじめた。





腕が太く長くなる




細身の城島の体は筋肉質になって二回りぐらい大きくなった。











そうして変形した城島の姿は、


「コングチャンネル」


コング、つまりゴリラと言うにふさわしい姿をしていた。





『うわ すごい
最新のドーピングか〜っ』


噛み合わせでドーピングすることがあるって聞いたことはあるけど、ここまで一気に変わるやつははじめて見た



「…だーかーら、ちがうんよ!!」


『うあっ』


いらだったように言う城島に軽々と持ち上げられて…投げとばされたっ


『ぐっ…!』

受け身もとれず背中がしたたかにカベにたたきつけられる



『いつつ…城島め…』





体を起こす瞬間、右肩ににぶい痛みがはしった。


『!』


もしかしたら打ち身ぐらいにはなってるのかもしれない。




『………』


そう思ったとき、頭の中に、ふっと 野球部の監督のほっとしたような笑顔が浮かんだ。















それは襲撃事件がはじまる前の部活で。
秋の大会にむけて練習が厳しくなってきた時のことだ。

「よかったなぁ、秋の大会 お前の代打の許可が出たぞ!」

監督が、その許可をとるためだけにお偉いさん方に熱心にかけあってくれたのをあたしは知っていた。

苦労の果てに、ようやく許可がとれたのも知ってる。





ここで骨折なんてしたら、監督のその好意を無下にすることになるんだ。






そのことを心によくとどめておかないとなあ……






「ほらほら休むなよ〜
どこに逃げてもすぐにわかっからね」

声とガラスを踏む音がどこからか聞こえて我にかえる。

あたしは立ち上がって警戒の体勢をとった。




それにしても…暗い。

目の利かない暗闇の中で、城島の声だけがじりじりと近づいてくる。

その声も壁に反響していて、城島がどこにいるかまるでつかめない。



「おまえにべっとりつけた犬の血の臭いが、ウルフチャンネルのオレには」


すぐ隣でガラスの音がしたと思った時、体がとっさに動いた


「プンプン臭ってくるんだよーーん」


顔のすぐ前を城島の攻撃が通りすぎていった!



『くっ』


見えないのは不利すぎる

城島の影が攻撃する直前で動きが止まった瞬間を見計らって光の方にとんだ。





「弥白!」


「ガァッ」


心配するツナの声に返事する間もなく城島が間合いをつめてきた



攻撃自体は単調だけど、城島の動きが早い


「ホイ!ソラ!」


城島の攻めをかわしつつ、どう相手取るか考える。
とはいっても、有効そうな作戦は1つ、もう考えついてる。
でもそれは 最後の最後にしておきたい作戦でもあった。



監督のため、野球のため、できるだけケガは少ない方がいい。

だけど、こういう時に限って他の考えは思いつかないもので。



うまい作戦が考えつかず避けて避けて避けること数十秒。

城島が攻めるのをやめて呆れた口調で言った。


「逃げてばっかじゃん。
もしかしてオレ相手に持久戦にもちこもうとしてんの?」



思わず苦笑い。
そーゆーつもりじゃないんだけど逃げてばっかりじゃ同じことだよね。



『いやーーそーゆーわけじゃないんだけど、秋にはマフィアごっこ以外にも大事なものがあってさ』


やっぱり、たとえ代打でも選手として大きい試合に出たいって気持ちがある。

中学入ってからあたしが出れた試合といえば、小さな市民大会と他校との練習試合の数回しかなかったから。




…それはあたしの事情。
これは、城島にはぜんぜん関係のないことだ。


「わけわかんねーぞボケ」


いたちごっこが再開する。








でも、どんな勝負にも終わりはくる。



今回の場合、


「うぎゃあああ!!!…げふっ

いで〜〜!!死んだかと思った――」


『ツナ!』



ツナが落ちてきたのがそのきっかけになった。



「んあ?誰こいつー?ザコのお友達れすか?」


城島の興味が派手に登場したツナにむく。




城島は思わせぶりにあたしと落ちた痛みにうめくツナを見比べて…うなずいた。




「よーし 山本逃げるし、さきにウサギを狩っとくかな〜」

『なっ』



城島は特に未練もなさそうにあたしに背をむける。




…彼にとってはあたしもツナも同じ暇つぶしのおもちゃでしかないってことを、その動きで悟った。




城島はツナにむかっていく。




「いたらっきまーーす!!」




…なんだか、野球と友達 どっちが大事なのか試されてるみたいだ。



ここで城島を止めれば、あたしは作戦にしたがって間違いなくケガをする。


止めなければ…ツナがやられてる間に無傷で倒すとかもできるかもしれない。




「うぎゃーー!!きたーー!!食べられるー!!!」






ああ、でも





ツナを犠牲にしてまで無傷で勝とうなんてどうしたって思えないよ








だからあたしは選択する。






ガッ



城島の頭に石つぶてをあてた。

そこそこ力を入れて投げたはずだけど、城島がこたえた様子はなかった。




「んあ?」



けど、こっちに興味を引くのには成功。



『あなたの相手はあたしっしょ?』


ふりむいた城島に笑って言えば、ツナへの突進がとまった。




そんな彼に、手のひらでもてあそんでた石を見えるようかかげて、挑戦的に口角をあげてみせる。




『きなよ
これぶちあててゲームセットだ』






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