雨音が聞こえる

□四
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――着地の衝撃が全身をおそった


『いっ…つ〜…』


全身の痛みのせいで、打ってもいないのにじぐじぐと痛む頭。


それに手をそえつつ起き上がると、そこは暗くて広い空間だった。


あたしのまわりは自分が落ちてきた穴から入ってくる光で見えるようになってるけど、それ以外は真っ暗だ。



『これ…草かな
ずいぶんひからびてるや』


…もしかしてここって、ツナが言ってた植物園?

土砂くずれで埋まってたとこにあたしが落ちたって感じかな。




自分でもびっくりするくらい冷静に今の状況を推理してると、足元に人の頭の形に影がおちた。



「弥白!」


ツナの声。

あたしが落ちてきた穴をツナがのぞきこんでるけど…逆光になってて顔が見づらい。




…にしても、この高さだとロープがない限り地上に戻れそうにないなぁ



「野球バカが!」


『はは、まいったな…』


獄寺のお叱りに苦笑いをうかべつつ 心配してくれてるツナに大きく手をふってみせた。




『……あれ』


その時に、あたしが落ちてきた穴の他に2つ、同じように天井に空く穴を見つけた。






1つはさっきあたしに襲いかかったケモノが出た穴





じゃあ、もう1つは?











ザ…ッ




…闇の中に、何かいる。




「弥白!右に何か獣いる!」


降ってくるツナの声を聞くと同時に、ぼんやり浮かびあがる陰にむけて身構えた。




こいつは多分、さっきあたしを襲ってきたケモノと同じやつだ。今ツナたちが襲われてないのがその証拠。


…さっきの感じといいわざとここにあたしを落っことしたことといい、ずいぶん頭のいいケモノだ。


頭のいいケモノは手ごわいって話をよく聞くなー…





どう相手取るか頭の中でざっと考えをめぐらせてみる。



ジャリ…



その間にも、ケモノはゆっくり近づいてきてる。


ふいに、らんらんと光る目があたしをとらえた。





「カンゲーすんよ 山本弥白」


『!?』



しゃべった!?



「柿ピー寝たままでさー
命令ねーしやることねーし超ヒマだったの」



ケモノが話しながら二本足で立ち上がったのがぼんやりと見えた。



「そこへわざわざオレのエモノがいらっしゃったんだもんな」


猫背ぎみだった背中がしゃんと伸ばされて、舌ったらずな口調がちょっとはっきりした感じがした。


「超ハッピー」


『ん?』


「あれ?
人だよ…人間だよ!!」


「黒曜の制服!!」



そうして光の輪の中に出てきたのは、あたしとそう年の変わらない黒曜生の男子だった。



「上の人達はお友達〜?
首を洗って待っててねーん
順番に殺ったげるから」



彼はケモノ染みた雰囲気を持ってるけれど、あのケモノと彼が同じだとするには体格的にずいぶん無理があった。



ケモノはどこに…






『あ』






そうだ、これってマフィアごっこじゃん




リアルすぎてすっかり忘れてた!




『ハハハハ!』


「?」


『あなた見かけによらず、器用なんだね
さっきの死んだ犬の人形、すっごくリアルだったよ!』


あのケモノもよくできた人形だって考えると…今この人が出てきたのはその種明かしってとこかな?





「……もしかして天然…?
まっ いいけど…」


首をかしげて彼が何かつぶやいたけど、あたしには聞こえなかった。




『あ、そーだ
あなたの名前はなんてゆーの?』


「んあ?城島犬っつうけどそれがどーしたんらよ」


『へー城島ね』



よし 覚えた。城島犬、ね


…けん?




ちょっと前にその名前を聞いたような…



「よーい……ドン!」


その思考は城島がまっすぐ走ってむかってきたことでさえぎられる。



『ちょっ』


「ギューン!!」



もちろんあたしは避けたけど、城島はそんなのおかまいなく子どもみたいに叫びながら走っていく。



彼はカベにむかってとびあがると、それを蹴った反動で跳ぶ…っ!?



「ひゃほっ」



城島は、弾丸みたいな勢いで反対側のカベまで跳んでいった!



「なにあれ!!?」


「人間技じゃねぇ!!」



人間離れしたアクロバティックな動きでカベからカベへ跳びまわる城島を目で追う。


けど、スーパーボールみたく不規則にはねかえる彼の動きに反応が追いつかなくなってってるのが自分でもわかった。



「ウキッ」



だから


彼が急にあたしにむかって跳んできたのを認識するのにすこし時間がかかった



「いったらっきまーす!!」


『なっ』



ケースからとっさにバットを取りだすと、刀になったそれの刃は、むかってくる城島にむけられていた。




ヤバい…!










ガッ


刃だってわかってるはずの彼が刀にかみついたその瞬間、刀に一気にひびがはいるのがスロー再生されたように見えた。


まるで見せつけるようにあたしの目を見て、城島がかみつく力を強くしたと思ったら、




キンッ




刀が、折れた。



城島がおもいきり噛んだだけで、あっさりと。




折れてふっとばされた刀身が、うしろの壁に刺さった音が聞こえた。




「ヒャホーーゥ!!
次はノドをえぐるびょん」



城島の戦いの意思をうけとるのと同時に、








――思いだした




あたしはあることを思いだした





「けん」は、昼間獄寺をおそった帽子の人が言っていた名前だ。



―山本弥白…おまえは犬の獲物―



だとすると。

これは、獄寺がやってたようなどっちかが倒れるまでやんなきゃいけない戦いだ。



あたしがもし負けたら、帽子の彼と同じように城島は次にツナをねらうはず。



上には、ツナの他にケガ人だって赤ん坊だっているけど、あたしには正直、城島がそういうのを気にするタイプには見えなかった。












…なんだ、やることは最初から決まってるじゃんか。





『フーーー』



深呼吸1つ。



それで頭の中のスイッチが切りかわったのを感じた。




『そっか、マフィアごっこってのは加減せずに相手をはっ倒していいんだね

…そういうルールね』






絶対に、勝つ。







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