雨音が聞こえる

□三
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ビアンキさんのポイズンクッキングのおかげで黒曜ランドに乗り込んだあたし達。



だけど黒曜ランドは広すぎる上に土砂崩れでめっちゃくちゃ。


ツナの記憶をたよりに進んでも完璧に土で埋まってるところもけっこうあった。



「えっと…入り口から少し行くとビニールハウスがあったんだけど…」


「そんなものないじゃない
あなたの目は節穴だわ」


「んなっ!」


『まあまあ
この上にあるかもしれませんし行ってみましょうよ』



獄寺が戻ってきたあたりからずっとピリピリしてるビアンキさんをなだめて目の前にある急斜面を指さす。


もし上に無かったとしても高いところからなら色々見えるよね。



「わかってるわよ」




早足でそっちに向かうビアンキさんは、しきりに獄寺の様子を気にしながら登っていく。





………。





『んじゃ、ツナ。あたし達も行こっか!』



「う、うん…」












キツい上り坂をあがりきってまわりを見てもツナの言うビニールハウスは見当たらなかった。



『ビニールハウスの残骸らしきものも見当たんないね〜』


「どーせ土砂崩れでそれも流れたんだろ」



獄寺が投げやりにそう言った。
さっきまでリボーンくんの持ってきた地図を見て「土砂崩れの方向は…」とか「この場合力のベクトルは…」とかぶつぶつ呟いてたけど諦めたらしい。



ちょっと遅れてツナがのぼってきた。


あたしがやったのと同じようにまわりを見渡した後、彼は苦笑いをこぼす。



「……めちゃくちゃ変わっちゃってるから案内意味ない気がしてきた…」


「そんな事ないっスよ 10代目!」


『そーそー合ってるとこだっていっぱいあるんだから自信持ちなよっ』


「なんかだんだんあいまいになってきたんだよね…」



さっきのビアンキさんの言葉を気にしてるのか沈みはじめたツナを獄寺となぐさめる。





と、







ふと、目の前を、誰かが通りすぎた。







それは ツナよりも獄寺よりもずっと背の高い男子だった。









さっぱりした髪形の彼は、たしかな足取りで歩くと 何かに気づいたのかしゃがみこんで――








「弥白?」


はっと我にかえる


あたしが見てたそこにはもう誰の姿もなかった。



「ねえ、今――」


『ごめん ちょっと…』



ツナを置き去りに小走りで先に進む。


その間も後も 肩に乗るリボーンくんは何も訊いてこなかった。










さっき"彼"がしゃがみこんでた場所についた。



『しゃがんだってことは…』



地面。


やわらかい土の上に動物の足跡がくっきりついてるのを見つけた。



「何か動物の足跡だな」


『うん
…まだ新しい』


しゃがんで足跡をさわる。指についた土はまだ湿ってるものだった。


「犬か?」


『にしては大きすぎるね』


あたしの手よりもずっと大きいそれ。
少なくとも近所の芝犬がつけたものじゃないのだけは分かる。



「見せて」


ビアンキさんが横からのぞきこんできて足跡をさわる。


彼女の指先が爪の部分に触れたとき、ビアンキさんの形のいい眉がくっとしかめられた。



「爪の部分…血よ」



「ひいい…まさかまだ動植物園の動物がいるとかー!?」



「そんな まさか…」




獄寺の言葉をさえぎるように、背後の草むらが風もないのに大きく揺れた。



「!」



場の空気が一気にはりつめる。


全員の視線が集まると、それを待ってたかのように草むらの中にいる何かがあたし達の周りをぐるぐると走りだした。




…!
すっごいスピードだ


右にいたかと思えばもう左にいる




草むらの揺れる間隔があまりに短すぎて、たくさんのものに囲まれてるような気がしてきた――





がさっ!



――なにか、


「うしろだ!」


来た!


『くっ』



体を振り向かせたときにはもう激突寸前ってとこだったけど、どうにか両手でわきを掴んで…






腕の中で野犬は手足を弛緩させた




彼の瞳は白濁として何も見ていなくて、



鼻先をかすめたのは



――血のにおい




『コイツ…!』



掴んでいる腹が、ごぼりと水っぽい音をたてる



『すでにやられてる!』



両手のふさがってるあたしに、野犬の口から吐き出された赤黒い液体を防ぐ術は無かった。







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