通り雨

□恋い焦がれる
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昔、狼に襲われそうになった私を必死に助けてくれた人がいた。




涙で滲む視界にうつるその人は、全身傷だらけで所々血も出ていて。



それでも彼は太陽のように笑ったのだ。
















幼い私が恋に落ちるには それだけで十分だった。


否、むしろ、十分すぎだ。











彼はどうやら遠いところからこの学校に通っているようで、

どおりで私やその他の人達ような茶髪ではなく純粋な金髪をしているわけだと納得したのを覚えている。


(実は強制的に連れてこられたんだと後で教えてもらった)










授業の評価は全部人並み以下。

彼の明るい性格は学校では発揮されず、クラスの違う私が来るとき以外 彼はいつも1人でいた。






それじゃダメだと私の友人を紹介してみたものの、
彼は緊張してたのか盛大にすっ転んで――ついでに友人を巻き込んで――川にダイブ。





大泣きして帰っていった友人は彼どころか私にすら近づかなくなってしまった。















それから、数ヶ月。




彼が、学校からいなくなった。




昨日までいつもどおりに笑って話していたのに。




今日も会いにいった彼のクラスの人に言われたのは「彼は転校したらしいよ」との言葉。






信じられなくて、職員室まで人の目も憚らず全力疾走。








そこで聞いた答はやはり 教室で聞いたものと同じだった。













なんで急にいなくなっちゃったの?




なんで何も言ってくれなかったの?




私ってそんなに聞き分けの悪い奴だった?









それよりも―――――ねぇ、もう会えないの?













私の恋は、終わりですか?























…ううん、「失恋」と片付けるのはまだ早い。




私はまだ彼に自分の気持ちを言ったことなんて一度もないんだから。








せめて、彼を見つけて返事をもらうまでは、


この気持ちは大切に取っておこう。











未来で彼に会えるとは限らないけど、彼がいなくなることはないはず。





一度だけ彼が漏らした所属マフィア



"キャバッローネ"



今は傾きかけてるらしいけど、これは世界でも有数のファミリー。







だからきっと、私の所属する このちっぽけなファミリーが潰れることさえなければ、彼を見つけることはできるはず。











裏の世界の人間であることに希望を見出だしたのは初めてだった。


















―――必ず、見つける。












ただただ純粋に、




会いたいと






望み、願う。



















数年後



『…覚えてるかな?』




とうとうここまで来た。




現在彼がボスになっているキャバッローネファミリーとの同盟の場。





そう、決意した後しばらくして気づいたのは、マフィアのボス同士が会うのは同盟の場ぐらいしかないこと。






会いたいって言って会える世界じゃない。






だから と、キャバッローネと同盟が組めるだけの力をつけていたら、こんなに時間がかかってしまった。







彼も私ももう二十歳を越えている。


何年も前に会ったきりの私のことなんて覚えていない可能性の方が高い。














それでも、





『それでも、どうしてももう一度だけ会いたいの。


――ディーノ、貴方に』












重厚な扉が開く―――


















いいところだけれども、ここでこの話はおしまい。





このお話がハッピーエンドなのかバッドエンドなのかが記載された資料はどこにも残されていないのです。











しかし願わくば、彼女の幾年越しの想いが実らんことを――








end.
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