雨音が聞こえる

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『(…これで全部
笑っちゃうぐらい単純でしょ)』


「(でも、これ、弥白ちゃんがとても危険じゃないですか!
他の作戦を考えましょう!!)」


「(…ハル姉、次の作戦を考える時間はないみたいだよ…ほら)」




5分くらいかけてソフトクリーム(だったもの)を食べた腹ペコライオンたちは、次の獲物をさがしてまわりのにおいをかぎだした。




『(あたしたちが近くにいるってのには気づいてるみたいだ)』


「(ハル姉、)」


「(〜〜わかりました!!
弥白ちゃん!今度ラ・ナミモリーヌのケーキおごってくださいね!!!)」


『(ハハハ、了解)』




半泣きで言うハルに笑ってうなずく。
あぶないのは彼女だって同じなのにあたしの心配をしてくれる友に感謝。



そして、ホントは今にもさけびだしたいぐらい緊張してるはずなのにハルの背中をさするフゥ太の頭をなでてやると おどろいた顔をして、ちょっと泣きそうになっていた。




またライオンたちの様子を見る。





3頭の目はまっすぐこの茂みを見つめていた。





ばれてるな、これは…



ライオンたちは獲物のあたしたちを逃がさないように半円をせばめる形で歩いてくる。






『(じゃ、いくよ
…3…2…1…)』





0は言わない。

その代わりに おおきく息をすいこんで、


3人同時にさけんだ。





威嚇になるかどーかなんて知らないけど、あたしが草むらからとびだすだけの時間がかせげればそれで十分だ。





いきなりのさけび声に警戒して立ち止まったライオンたちと、草むらから出たあたしとがむかいあう。




『っ!』



そして彼らはすぐさまあたしにとびかかってきた。


紙一重でよけたあたしは、2人がまだかくれたままの草むらとは反対のところから手をたたく。




『鬼さんこちら、手のなるほーうへーーっと』





これが、一番の関門。



あたしにとびかかってきたライオンたちは、自然と2人のかくれてる草むらに近くなる。

ここでもし、彼らが2人に気づいたら まちがいなく2人がねらわれることになる。




それはなんとしてもさけたい。






だから、わざとライオンたちを挑発する。




「「グルルルルル…」」



メス2頭があたしにうなりだした。

たてがみの立派なオスライオンは、その2頭にあわせて軽くうなる。






『2人とも、後はたのんだ!』




成功だ。

背をむけ走りだしたあたしを、ライオンたちが追いかけてくる。




『よしっあとは…』



走りながら動物園の地図で今いるところを確認した。





これが作戦。

あたしがおとりになってライオンたちに追いかけられてる間に、ハルたちは係の人を呼び、ライオンをつかまえてもらう。



あたしは3人で前もって決めたルートにしたがって追いつかれないように逃げきらないように走るだけ。





とはいえ相手はライオンだからほとんど全力で走んないとならないけどね〜






『ハハッ のんきに、考えてる ヒマ、ないみたい』


恐怖を笑みで上書きした。






ガチ鬼ごっこのはじまりはじまり













いくら息をすっても体にまわってる気がしない。



だけど、




『くっ、』



彼らがどっかに行こうとしたら前に出て気をひかなきゃならない。



木からとびおりれば、オスライオンはすぐにふりかえってあたしを襲う。




逃げる。






まともに休めないままそれがくりかえされてきた。






足が重い。

胸が痛い。

目の前に星がちる。



―どのぐらい経ったんだろう。




あたしはかなりきびしい状態になってきていた。



でも、止まるわけにはいかない。
せまくなりつつある視界の先をきっ とにらみ、てすりをつかんでぐるっと角をまがった。




「うわぁ!」


「きゃっ!?」




まがった先にはツナと京子。

よけることもできず ツナをまきこんで地面にたおれた。




「や、弥白!どうしてここに…っていうか汗だくじゃん!どうしたの!!?」


「弥白?」


『ハハッ気にしな いでいーから、2人は早く あっちに……あれ…』




ツナの上からどこうと手をついたものの、うまく力が入らずツナの横にぱたり。




『…やば、この ままじゃ追いつかれる…!』



「…追いつかれる?何に…う、うそぉー!!ライオン!!?」




立ち上がれない。



ライオンは、固まるあたしたちを見定めるよーにゆったり余裕をもって歩く。







やばいやばいやばいやばいやばい





あたしだけじゃなく 2人まであぶなくなった

ツナたちに会わず、1人でころんだだけだったらどれだけよかったか。





のこってる力をふりしぼってなんとか立つと、ライオンたちとにらみあいながらツナに言う。




『逃げな、ツナ
はやく京子を安全なとこまでつれてってやって』


「待って、弥白は!?」


『…もうちょっとしたらハルとフゥ太が係の人をつれてくるはず
それまで逃げきるのが、あたしの役割だから』


「そんなの『だいじょーぶ』……わかった…ぜったい後で戻ってくるからね!」



ツナは京子をつれて走っていった。




『さて…続きといきますか』




ツナを追わずにその場にいつづけた3頭は、ほえてとびかかってきた。





















『はっ はっ はっ、うぁ!』



力のはいらない足がもつれておもいっきりころんだ。

ハデに血が出てきて そのにおいで3頭の目の色がかわってくのがわかった。




『やばっ…!』



立てる体力なんてもうなくて、情けないけどすわったままあとずさる。





絶体絶命



その4文字が酸欠の頭をよぎった。






グワッととびかかるライオンに、あたしはさがるのをやめ 頭をかかえて強く目をつぶっていた。



―南無三…!







「それはダメー!!」




目をあけたとき、ライオンは、あたしとの間にわりこんだ人に標的をかえていた。


その人に、ライオンのするどい爪がふりさげられていく。




『ツ「極限!!」




そのスローモーションの世界をやぶってライオンをなぐりとばしたのは



『…センパイ!』



京子の兄 笹川了平センパイだった。





「うむ
やはり動物園にきたらこのくらいせねば割があわん」



何か考えて、ぽんと手をうつ。



「今日からオレのリングネームは!!極限ライオンパンチニスト了平!!!」




空たかく拳をつきあげてさけんだセンパイのうしろでおこった爆発。




「ったく動物園ってのはうるせーぜ
捕まえりゃいーんだろ?」

「獄寺君!!」



ケムリの向こうからあらわれたのは さっきまであたしを追いかけてたライオン2頭を気絶させた獄寺。




ブスッ


「何にしたらおいしいかしら?」

「ビアンキ!!」


と、ビアンキさん。



獄寺はビアンキさんを見るなり気絶した。




「大丈夫ですか 弥白ちゃん!?」


「ヤシロ姉!」



2人が力いっぱいだきついてきたせいで大丈夫、とは言えなかった。




『ふむもむもーっ』



「弥白ちゃん、早く助けに行けなくてすみませんでした!!」


「結局係の人は見つからなくて、ヤシロ姉をさがしてたツナ兄にしらせて、ボンゴレのみんなに声をかけたんだ!」




2人のふるえる背中を軽くたたく。



必死になって係の人をさがしてくれてたってのが痛いくらい伝わってきた。
2人はあたしに負けず劣らず汗だくだったから。




『2人とも、ありがと―』



本気で心配してくれた2人に礼を言ったところで、











「弥白ちゃん!?」


「ヤシロ姉!」


「え……弥白?」







暗転。









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