雨音が聞こえる

□25.5
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『っと、和菓子はここで買うといいですよ』



「お、ありがとな!
すまねぇんだが買い終わるまで待っててくれるか?」



『りょーかい
じゃ ごゆっくりどーぞ』





ここまで案内してくれた彼女―山本弥白は、そう言うと店先につながれている犬とたわむれはじめた。



そうは言ってもあまり待たせるのも気が引けるため、ディーノは店に入って手早く買い物をすませていった(2、3度転んだが)。













2人が一緒に行動しているのは、
部下のいないまま行動して案の定迷ったディーノがジャージ姿の弥白に遭遇したからだった。




ボロボロな状態のディーノ(彼のトラブル体質の結果)を見て事情を聞いてくる弥白にごまかすことなく説明すれば、少しの間をおいて並盛町の案内を勝手出てくれた。




こうして行き当たりばったりの2人組は完成した。













さすが案内を引き受けるだけあって、買いたいものを言えばそれが売っている場所に最短距離で案内してくれる。



道中ディーノにふりかかるトラブルに時間をとられても弥白は笑顔でいて、特に急ぐ様子もなく歩いていた。






好奇心からたまに訊ねてくる"仕事のこと"をうまい具合にはぐらかしながらディーノは着々と買い物をすませていく。












その最中 ディーノは山本弥白という少女を観察していた。




『で、並中を…っていうか並盛全体を風紀委員会が支配してるんですけど
その頂点に君臨するヒバリって人がメチャクチャ強いんですよ』





今のところツナが一番ヒバリの強さに近いですかねー


どことなく苦さが混じった笑顔でそう言う弥白は きっとヒバリと接触したことがあるのだろう。


そしてその際 どういういきさつかは知らないが(リボーンの奴が関わってるにちがいないが)そのヒバリとやらに敗北し、なんらかの形でツナがそれを助けた。


平和主義的考えのツナが率先して戦うのはありえないから、そう推測できる。




そして彼女はそのことをずっと気にしているのだ。






「―――意外と負けず嫌いじゃねーか……」


『? 今 なんて』


「いやいやこっちの話だ」





彼女はもっと柔軟で シンプルに物事をとらえ 勝ち負けにこだわらないタイプだと思っていたが、実際はちがった。




心の内ではプラスもマイナスもふくめた多くの感情がめぐっていて、
それを隠すために笑顔を浮かべる。




驚くほどに人間くさいから その笑顔に安心させられるんだよな、きっと。









「おっ
これで買い物も終わりだ!
ありがとな弥白!この礼は近いうちにするぜ」


『いや、あたしが勝手にやったことなんで礼は』


「そうだ!そういえばリボーンに聞いたぜ。
うちが寿司屋をやってるんだってな

そのうち部下をつれて食べに行ってもいいか?」




いらないです。という言葉を遮ってそう言うと、




『ハハ、じゃあそれが礼ってことにしといてください』


「いやそれとは別で…」


『そんなに気を使わなくっても大丈夫ですから』




逆にそれを利用されてしまった。




頭のまわる相手と話すのはこれだから難しい。

しかもそれが見た目に反映されない奴ならなおさら



底抜けに明るい笑顔から有無をいわせない雰囲気を感じとったため形だけでも納得しておくことにした。
















背後から近づくロマーリオたちの気配を感じとり、
この出会いのタイムリミットを悟ったディーノは弥白に別れを告げる。




「本当にありがとうな弥白。
おまえとはまだ会ったばっかだが一緒にいて楽しかったぜ」



『あたしもですよ
ディーノさんは社長だってゆーからもっと話しにくいもんだと思ってたけどそんなことなくって
なんかアニキができた感じがしておもしろかったです』


「こんな兄貴でいいんならいつだってかけつけてやるよ」




ディーノが差しだした手を握り握手をした弥白は軽く頭を下げると ロマーリオたちが来る方とは逆の方向に歩いていった。





角を曲がる直前 その場で見送っていた彼に手を振って、彼女はディーノの視界から完全に消えた。








「よおボス。どこ行ってたんだ?」


「また迷ってたんだろ?」


「ちげーよ!
あれだ、散歩がてら土産を買ってただけ…ってお前ら信じてねーだろ」



もちろんとでも言うようにニヤニヤと笑う部下達にため息をつくディーノ。



見かねたロマーリオが助け船を出す。





「そういや、ボスと一緒にいたあの子は誰なんだ?

一応朝に会ったが名前は聞いてないぜ」



言われてみれば、獄寺と違い弥白のことを紹介していなかった。


そうだ、そうだ!とあがる賛同の声を静め、ディーノは言う。







「あいつの名前は山本弥白。




獄寺と同じくツナのファミリーで







オレの妹分だ」













お前がオレをアニキみたいだと言ったように、





オレもお前を妹のようだと感じたんだ。









お前を妹分だと思う理由はそれだけで十分。

















だから、ムチャすんなよ?





感情を笑顔で隠すその少女に向けて、ディーノは彼女と同じような笑みを浮かべてつぶやいた。









end.
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