雨音が聞こえる
□5
1ページ/5ページ
―早朝―
並盛町にあるバッティングセンターから、景気よくボールが打たれる音が聞こえてくる。
たとえ打っている本人が景気がいいと思っていなくとも。
『くっ……』
彼女、山本弥白は焦っていた。
タイミングも合わせ、渾身の力を込めて打ったはずのボールが、
ホームランと書かれた板を遥かにずれたファールゾーンへと飛んでいったからだ。
まだ早い時間だというのに彼女の額には汗が滲み、
顔や首筋に張りついてくる髪を鬱陶しそうにはらう。
そして持っているバットを構え直すと、飛んでくるボールに意識を集中した。
それから何十本も打ったものの、ホームランの板付近に飛んだのは十何本。
板に当たったのは片手で数えられるだけの数だった。
こうして、彼女の一日は始まった。
→