ワレモコウ
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父「悠がピアノとヴァイオリンを壊した理由を知ってるかい?」
幸村「え?聞いてないです」
父「彩夜が…毎日、悠の話を聞かなくて…これがあるから私の話を聞いてくれないんだって…。気付いた時には遅かったって」
幸村「…」
父「私、初めて悠叩いたよ。おかしいだろ?彩夜は叩いたことあるのにね」
幸村「あるんですか?」
父「あるよ。妻も私も…。何回も」
幸村「なんで…」
父「彩夜が溜め込む様になった原因は、私達にあるんだ。ね、葉月」
幸村が後ろを振り返ると、彩夜の母が立っていた。
父の隣に座ると母は幸村ににこりと微笑んだ。
母「昔はちゃーんと我が儘も言ってたし、どっちが悠でどっちが彩夜だなんて分からなかったくらい…二人は似てた。彩夜が変わったのは…昔、お家で由希と悠が事故に遭った時に私達が彩夜だけを責めて、叩いたのが原因なの」
父「その日、あの子は自分の部屋にあるベッド、机、椅子、クローゼット…全部壊した。それでも平然と過ごしてるから…知らなかったんだ…」
母「祖父母のところに行った時に気付いたの。私達じゃなくて父母がね」
父「由希、悠、彩夜と祖父母で遊ぼうとしても…あの子だけは一人で勉強し始めるって」
母「ピアノを一人で弾き続けるって」
幸村「ピアノ…いつからピアノをやってるんですか?」
母「その時初めてよ」
幸村「え?」
母「祖父母から「何が欲しい?」って聞かれても「欲しいものないからいらない」って答えるの。それが4歳」
幸村「4歳…」
父「そこから溜めるようになった。彩夜はなんでも一人でこなす様になったよ。授業参観の知らせも見せない…彩夜の部屋に気付いたの5歳の時」
淡々と話して行く両親に、幸村は大人しく聞いている。
父「どうしてこうなったッて怒鳴りつけた。あの子口を開こうとしてた。でも私達は言い訳するなって…また怒鳴った。そしたらあの子『いらないから』って一言言うと部屋から私達を追い出して、鍵しめて出て来なくなった」
母「祖父がベランダから彩夜の部屋に入った時にね。追い出そうとしたのよ」
祖父「おやおや。良くできたね。こんなに…たくさん」
『出てって出てってよッお祖父ちゃんだっていらないって』
祖父「彩夜、何が辛くて何が怖い?」
『知らない。何も知らないッ』
祖父「何かが壊れるのが怖いかい?」
『…っ。いらない。いらないって…。ずっと…いらないって…』
祖父「辛かったね…。もう大丈夫。お祖父ちゃんが彩夜の味方になってあげる。パパやママに何言われてもお祖父ちゃんが彩夜の味方になってあげる」
『私…真ん中なのに……全部私のせいにされる。幼稚園でも…家でも…。私の居場所なんてどこにもない…だから壊した。自分はいらない子だから全部いらないッ』
祖父「もう大丈夫」
幸村「そんな…ことが…?」
母「だから4歳の時にピアノを弾いた彩夜を見た祖父は彩夜だけの為にピアノを作って、5歳の誕生日にプレゼントとして渡した。世界にただ1つのピアノとして」
父「そこから夢中になって彩夜はピアノを弾いた。楽しそうだったよ。ピアノをしている彩夜は…」
母「小学生に上がって、彩夜は新体操部に入った。勉強も満点。ピアノもコンクールで優勝してくるくらい…」
父「また異変が起きた時は…彩夜はちゃんと私に言って来た。でもね…あの子、どうしようも無くなってた。だから立海に入学したんだ」
母「もう嫌だってね」
『悠や由希の成績が悪いのは私のせい?』
『由希や悠が要領悪いのは私のせい?』
父「耐えられない位、6年間…一人で溜めてた。だから私が…良いよって、彩夜がしたい事をすれば良いよってそしたらあの子笑って『ありがとう』って言った」
母「本当に比呂士君には感謝してる…。あんなに笑って、私達に話かけてくれる事も今まで無かった。祖父にも感謝してる…あの子の事をちゃんと気付いてくれて、夢中にできるものを与えてくれた…」
父「だからね。彩夜にとってあのピアノは…一番最初に自分を救ってくれて、気付いてくれた祖父に貰った最初のプレゼントなんだよ。私達がズタボロにした小さな心を癒やしてくれたのがあのピアノなんだ。夢中になって嬉しい。楽しい。感情を増やしたのが、あのピアノ」