トライアングル・トライアル

□[3]このドキドキはもしかして
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試験後の憂鬱、普段なら全教科の答案が返される間、さらにその後にある個人懇談まで続くのだが、今回は違った。
家庭教師の成果が基本五教科が軒並み平均を上回るという点数に現れた。

母親など現金なもので、テスト結果に気をよくしてか、それこそ現金、臨時お小遣いという報酬で応えてくれた。
その上、志波の都合さえつくのなら、勉強を見てもらう日を増やしたらどうかと言い出す始末だ。

もし叶うのなら、と遼平も志波が来る日が増えることに異存はない。
むしろもっと来て欲しいとさえ思っている。
塾の日を減らして、ずっと志波に見てもらいたいくらいだ。

本当にこのペースで教えてもらえば、志望している瑞嶺どころか、ひそかに行きたいと思っている松英ですら手が届きそうな気がしていた。

試験明け後、家に来た志波に、まずはと遼平は答案用紙と学年の順位表を差し出した。

ベッドの端に腰かけて、遼平から受け取った用紙に志波が目を通す。

「嬉しいね。勉強を見ている子の成績が上がるのは」

志波の賛辞がくすぐったい。

頑張ったのだ、自分は。
この結果が証だ。

「暗記ものは大丈夫だね。公式も頭に入っている。後はイージーミスをなくすように気をつけることと、数をこなして問題慣れしていけばいいね」

九教科分の答案用紙を順に捲っていた志波が顔を上げ、遼平に笑いかける。
遼平はその顔に、もう馴染みになりつつあったドキドキ感を飲み込んだ。

「ねえ、志波さん。もっと家庭教師の日を増やして勉強を見てくれるっていうの、ダメ? 俺、志波さんに勉強見てもらえたらもっと成績上がるような気がするんだけど」

志波の答えを期待して、遼平は聞く。
だがあっさり断られた。

「俺の来る日が増えたからって、直結して成績がアップすることはないよ。大事なのは遼平くん自身の頑張りだからね」

週一で二時間。
それで十分なのだと言う。

「そういうものなの?」

志波の言葉が、つきんと胸に来る。
時間を増やして欲しいなどと、迷惑な話だったのだろうか?

そんな思いが顔に出てしまったのか、志波が目を細めた。

「今回の結果は、遼平くんが一所懸命やったからだよ。元々遼平くんはできるんだし、要は力の発揮どころを理解できればおのずともっと成績は上がるよ。俺はちょっとそんなきっかけを教えただけ」

確かに今回の試験はこれまでと違い頑張ったと自分でも思う。
その成果が数字として現れたわけだが、いつになく頑張ったのも、つまりは志波に認められたいという一心だった。
これで成績が上がらず、まして下がるようなことになれば、今は志波を評価している母親も、家庭教師を断ってしまうかもしれない。

そうなるのは絶対嫌だった。
  
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