トライアングル・トライアル
□[2]だってオトコのコだもの
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今日は塾も志波の家庭教師もない、貴重なフリーの日だ。
家に帰った遼平は部屋にこもると、制服から私服に着替え、さっそく学生カバンから立松の心遣いを取り出した。
机の上に広げ、一緒に引っ張り出した教科書とノートをいつでも切り抜きを隠せるように、開いた状態で並べる。
そうして遼平は机に向かった。
戸口に背を向けることになるため、ちょっと部屋を覗いたぐらいなら、勉強しているように見えるはずだ。
ついでに机の上の本立てから参考書をつかみ、横に積み上げておく。
インターフォンが鳴ったが気にしない。
下にいる母親が出るだろう。
「立松、よく持ってきたよな。持ち物検査は先週終わったとこだけど」
友情に感謝しながら、切り抜きをじっと見つめる。
白い水着を着たグラビアアイドルがポーズを取っている。
ないなりに胸の谷間を強調させて、あどけない顔をして微笑んでいた。
「うーん、ミカちゃん、カワイイんだけどなあ――」
以前にも実は何度かお世話になった。
しかし、どうも今日は覚えのある熱がちっとも感じられない。
「オレ、疲れてんのかな」
そっとジーンズの前を寛げ、中に手を入れてみる。
だが触るまでもなく何も変化は起きていない。
遼平はカメラ目線のアイドルの顔を眺めた。
脳内妄想をフルに働かせて、彼女とデートをしているシーンを想像する。
水着といえば海。
二人で泳ぎに来て、そこで思わぬハプニングが――とベタなことを考えるが、何故かのめり込めない。
「せっかく貸してくれたのにな。つまんね」
これなら髭オヤジが大きくなったり小さくなったりしながらコインを回収していくゲームのほうが集中できそうだった。
「何してるの?」
「う、わっわわ、志波さん?」
いきなりかけられた声に心臓が跳ね上がる。
体を強張らせながらも、切抜きの上にノートを重ねる。
「何隠したのかな?」
言われて遼平はイスを回転させて体ごと向き直た。
ちょうど背中で机の上のものは隠れるはずだ。
「ノックぐらいしろよ。いきなり声かけんな」
戸口に立っていた志波の目が、一瞬細められたような気がしたが、理由を考える余裕はなかった。
「ゴメンね。ドアが少し開いててさ、ちらっと遼平くんの背中が見えたもんだから。勉強しているようには見えないし、どうかしたのかなって」
ドアを確認しなかったのは遼平の手落ちだった。