トライアングル・トライアル

□[1]イケメン家庭教師登場
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「何だってもう。テスト隠しておくなんて」
「別に隠してたわけじゃ……」

引き出しの中にしまっておいただけだ。

「口ごたえするんじゃありません」
「まあ、いいじゃないか。遼平も分かってるんだし」
「いいえ、分かっていませんっ」

父親がとりなすように言ってくれたが、母親の一睨みで押し黙ってしまった。
休日、ゆっくり休んでいたいのは父も同じのようで、昼が近いとはいえ、きいきいとヒステリックに響く声など聞きたくないとばかり、その表情はうんざりしているようだった。

「まだ三年生になったばかりだからって、そんなこと思っちゃないでしょうね。もう早い子は二年から、いいえ、中学入ったらすぐに受験のこと考えてるの。この成績で瑞嶺(ずいれい)行けると思ってるの!? お兄ちゃんと同じように」

瑞嶺は市内で上位にランクする高校だ。

「それは……」

遼平はちらりと自分の前に座る歳の離れた兄、康祐(こうすけ)に目をやる。
康祐はその瑞嶺からこの地方ではトップクラスの国立大に進んだ、現在大学三年生。
両親の、特に母親の期待を背負い、それに応えるように何でもソツなくこなしていく兄は、遼平にとっても自慢の兄なのだが、昔から何かと比較され、かなりの重荷でもあった。

遼平の出来がまったく悪いのなら諦めもつこうというものだが、やれば出来る子、とおだてられ、ついついなけなしの努力をして、それなりに結果を出してきた。

今回の成績はひどいものだが、普段は上の中ごろあたりだ。
これも常にトップだった兄に比べるととたんに見劣りしてしまうのだが。

「そうね、家庭教師を頼みましょう。もっと真剣に取り組まないと、あっという間に入試が来て困るんだから」
「げっ! ウソだろ。これ以上もうムリだって」

遼平は目を丸くして抗議の声を上げる。
今も週三日の塾通いだ。
これ以上増やされるのはかなわない。

「ゲームやっている暇があるんだから、これくらいなんでもないわ」

遼平はぎくりとする。
昨夜遅くまで布団の中に小型携帯ゲーム機を持ち込んで遊んでいたのがしっかりばれている。
音量も最低まで絞り、ふとんを被っていたのに、だ。

「もうまたすぐに、今度は期末テストがあるのよ。そのときまたこんな成績だったら、瑞嶺どころか、萩西だって危ないじゃないの」

萩西は瑞嶺よりランクが下がるもののそれなりに名の知れた高校だった。
塾では現状を維持できれば合格圏内といわれていた。

「それは……」

つめよる母親に何も言い返せず、遼平は俯く。
成績だけが全てじゃないと言いたかった。
 
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