主は冷たい屍となりて

□EVIDENCE.1 「ミッシツノコイ」
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男は右脇腹を押さえふらつく足でドアまで行くと、鍵をかけた。

「ここには…私、い…以外の、人間はいない――」

目眩に足がもつれるが、何とか踏みとどまる。

「まだ…倒れるわけには、い…か…な、い……」

同様に窓も施錠した。

思うように歩けず、ついには這うようにしてデスクにまで戻る。
椅子によじ登りやっとの思いでその身を預けると、一番上のひきだしを開けた。

そこにはナイフがあった。
先ほどのナイフと同じ物。
昔、友と生涯の友情の誓いに一緒に作ったものだ。

青臭さに真剣に取り組めた幼い自分を男は思い出す。
そこにはかつて共に野を駆けた少年たちの姿があった。

「……あの頃が…一番…よ、良かったのかもしれな、い…な……」

恋など知らずにいたあの日々。

性の別など関係なくただ同じように遊び、学んだ。

「どこで…間違ってしまっ…たのだ、ろう…な……」

だれに問い掛けるでもなく出たはずの言葉だったが、過ぎし日の彼らの姿に重なる。

「だが…出逢えて、よ…かった、よ。ヴァ…ン、オッ、オ、リ……」

何度か取り落としそうになるが、ひきだしからそれを手にすると、息苦しさと苦痛に耐えながら、男は慎重に脇腹に合わせた。

「私…も、そこへ行っても…い、いか…な…・・?」




『何やってんだよ。早く来いよ』
『エド、早くー。待ちくたびれちゃう』




少年たちが笑みを浮かべ、そう言ったように聞こえた。

男は手にしたナイフに力に込め、ずぶずぶと、出血し続ける脇腹に栓をするかのごとく埋め込んだ。

「ああ、今行くよ……ヴァ、ン、……」




(オーリ……)




 

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