主は冷たい屍となりて
□INSPECT.2 「秘密」
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通された応接室でバークレーは関係者をソファに座らせると自らも腰を下ろした。
「私はトマス・バークレーと言います。今回の事件の責任者です。こっちはレイモンド・クーガー」
レイモンドはバークレーの後ろに立った。
「まったくスタンレー氏のことはお気の毒です。最近の様子はいかがでした? 何か変わった様子は?」
あたり前のように質問する。
変死事件を扱うたび、関係者には同じように訊いた。
「これと言って別に……」
これも関係者がたいてい口にする。
「あなたはどうですか? アーネストさん」
「私も特には――…」
「そうですか。では昨夜はどちらにいました? 外出されていたと聞きましたが」
バークレーは夫人を見た。
「ええ、昨夜は女学校時代の友人のもとに……」
「そのご友人の連絡先を教えていただけますか?」
バークレーは何でもないように尋ねたが、やはり感ずるところがあったのだろう。
スタンレー夫人は震える声で言った。
「どういうことですか? それはアリバイということですか?」
「いえ、たいてい尋くんですよ、こういうときは」
苦笑を浮かべ穏やかにバークレー返す。
「エドは自殺ではないのですか? 部屋は内側から鍵がかかっていたと聞きましたが」
横から堪らず、といった感じでエヴァンズ・アーネストが口を挟む。
「確かに部屋にはすべて内側から鍵がかかっていました。だから、どなたにでも尋ねるんですよ。事件のあった時刻何をしていたのかと。手続きみたいなものです」
これは本当ではない。
明らかに自殺・事故死と断言できる場合には必要のない質問だ。
暫くの沈黙の後、スタンレー夫人が口を開いた。
「昨夜は、ずっとエヴァンズと一緒だったんです。私たち、……そういう関係なんです」
「オルタネット!」
切り出した夫人の言葉にエヴァンズが驚愕を隠さずその名をを呼んだが、構わず言葉は続けられた。
「昨日、9時頃二人で屋敷に戻りました。主人と話し合おうと思って…でも、主人ははなから聞いてくれませんでした。あたり前です。自分の妻が親友と深い関係だったのですから。そしてナイフを取り出したんです。私たちは怖くなって逃げるように部屋から出ました。そのまま…彼が滞在しているホテルに戻りました。それが、11時ごろだったと思います。フロントでキーを受け取って、朝まで部屋から出ませんでした」
「本当ですか? スタンレー夫人、アーネストさん」
隠しても事実関係を調べれば分かることであるし、人の口からのぼるよりは、と考えたようだ。
だがバークレーもこれほどあっさりと夫人が話をすると予想していなかった。
「アーネストさん、どうなんですか?」
残りの当事者にも確認するため、バークレーは再度エヴァンズに問う。
「……そ、そうです。オルタネットの言ったことに間違いありません。私たちが部屋を出たとき、エドはまだ生きてました――」
エヴァンズは顔を両手で覆い、呻くように言った。
「ではそのホテルを教えてください。確認を取りますから」
バークレーはレイモンドに目配せをした。