主は冷たい屍となりて

□INSPECT.1 「密室」
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エドワード・スタンレーの書斎は、壁面に天井まで届く書棚を配し、中央には来客用の応接セット、突き当たりの窓を背にするようにデスクが置かれていた。
部屋の様子は別段争った形跡もない。

死体が運び出された後は、忙しく動き回る警察関係者がいなければ、何が起きたか分からないほど端然としていた。
ただし床には血痕が広がり、続き、果ては引きずったようなものまであったが。

なるほど、レイモンドの言うとおりだった。

「スタンレー氏はここで絶命していた」

氏の血液を吸い込み赤黒く変色した絨毯に囲まれたデスクの前にバークレーは立った。

「スタンレー氏は死の間際、何やっていたんだ? レイ、この部屋に飛び散っている血痕はすべてスタンレー氏のものなのか?」
「ええ警部。簡単なABO式での現場でやらせた検査結果ですが、スタンレー氏の血液型とすべて一致しています。だから――」
「分かった、レイ」

バークレーはレイモンドの言葉をさえぎった。

「スタンレー氏は、腹にナイフを突きたてた状態で、何かしら動き回っていたというこだな」
「そうです。スタンレー氏は戸締りをしていなかったことに気がついたらしく、ドアや窓の施錠に回っています」
「このドアの鍵は?」

入ってきたドアの内鍵にこびりついた血痕にバークレーは片眉を寄せる。

「鍵はすべてこの部屋にありました。確認してあります。ついでにこの部屋の窓という窓はすべて、内側からしかロック出来ません。つまり――」
「ああ、分かった。それ以上言うな」

再度レイモンドの言葉をさえぎると、バークレーは天井を仰いだ。
そして、溜息混じりに言った。

「俺は密室というのが一番嫌いなんだ。他殺かもしれない場合はな」




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