ハッピーウェディング
□3.揺れて惑い
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ドレスに使ったものと同じビーズでチョーカー作る。テグスを交差させて、大小のビーズを織り込んで。
花は手配した。当日花屋から届けられるカラーでデザイン科の後輩にアレンジメントしてブーケに仕上げてもらう。
ヘッドドレスはドレスに使ったレースで小さなティアラを組み合わせて作った。
ただ、ドレスが。肝心のドレスが――…。
代替モデルの背は一六七センチ。スリーサイズは一緒でも、身長が違うんは致命傷やった。
その差七センチ。パンプスのヒールと合わせて十五センチ。そんな高さのある靴など、今日明日で用意できるものではない。
簡単に裾を上げて済むなら迷わずオレはそうした。
だけど、裾の広がり具合、フレアの入りかた、今出来上がっているのがオレにとってベストなんや。丈を詰めてしまうとバランスが変ってしまうんや。
人から見れば些細なことと思うかもしれへん。けど、それはオレのこだわりやった。
部屋に置いたトルソーにかけたドレスとオレはサイズ表をぼんやり眺めていた。
恭耶からあれ以降連絡はなかった。
卒業制作ショーは作品を出す学生だけではない。ショーのできの良し悪しは、企画構成を受け持つ恭耶たちの今後の評価に繋がる。不測の事態やけど「できませんでした」では済まされへんのや。
恭耶の立場もよう分かる。そやけど……。
「会いたいって思うんはオレのわがままやろな……」
会いたかった。
今やったら、どんなに横でなーなー鳴かれても、構い倒せるのに。
頭を撫でて顎の下をくすぐったら、喉を鳴らしてくれるやろか。
「アホや、オレ」
恭耶は猫やない。そやけど、そう思わなんだら、オレとんでもないことまで考えそうや。
恭耶を抱きしめて、あいつの耳の後ろに息を吹きかけてみたい。
どんな顔するやろ、恭耶は。
くすぐったりやから、首をすくめて涙目になって笑い転げるかもしれんけど。
「あかんわ、オレ。やっぱ重症や」
抱きしめようにも、恭耶のほうが背が高いんやから背伸びせなかんやん。
いや、そういうことやなくて。
ふとドレスに目をやる。部屋の蛍光灯の下でも縫いつけたビーズはその輝きを反射させてる。
「そうやんな――」
今は代替モデルに合わせて修正したほうがええと分かっている。
せやけど、鋏を入れることができひんのは、はからずもこのドレスのサイズが恭耶と同じやってことやってんな。
仮縫いのときの恭耶。キレイやった。
男にドレスを着せてしまうなんて悪いことしたけど。
でもオレお前に着て欲しいんや――。