災い転じて恋をして
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「大丈夫ですよ。ひとまずどこか安いビジネスホテルにでも行きます」
金はかかるが、そうするのが一番気を遣わなくてもいい方法だ。
「そういや、昨日はどうしたんだ? やっぱりホテル?」
「いえ課長が泊めてくれました。行きがかり上というか、遅くなったからってタクシー乗り合わせて、オレのアパートまで回ってくれたんです。それで……」
本当に昨夜一緒でよかったと思う。もし課長がいなければ途方にくれて朝まであの場にいたかもしれない。
「課長が? そっか一緒に出張行ってたんだもんな。あ、課長だ」
温田の言葉に玉木は振り返る。樫原が歩いてくるのが見えた。
「来てたか、玉木」
「課長。昨夜はどうもありがとうございました」
朝別れたきりの樫原に玉木は頭を下げる。
「いや、いいよ。それよりこれを」
樫原が手にしていた封筒を玉木に渡す。
「何ですか?」
「会社からの見舞金だよ。何にしても金が要るだろうから、すぐに出してもらったんだ」
「ありがとうございます」
素早く手を打ってくれた樫原に感謝した。いくら入っているかは知らないが、これからのことを思うと、下世話な話だが金はあったほうがいい。
「それからあとで総務に行ってきなさい。事情が事情だから、いくらかは用立ててくれるだろう」
「はい」
会社で一時的に金を貸してくれるという話もつけてきてくれた。思わず涙ぐみそうになるのを堪えて、玉木は深々と頭をまた下げた。
「で、今夜はどうするんだ?」
「いえ、どこかホテルにでも行こうかと考えています」
先ほど温田に言ったのと同じことを口にする。
「そうか。なら、今夜もうちに来るといい。帰るときに声をかけてくれ」
「は、はい……」
玉木の返事も聞かずに、樫原が営業部を出て行った。
「玉木、これで寝泊りするところは確保できたな」
「え、ええ。ありがたいです。本当に……」
樫原の言葉はありがたかった。だが玉木は温田に気づかれないよう、そっと溜め息をついた。