浪漫奇譚

□[6]それぞれの思い
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「て、ん…んんっ……」

天宮司はルビアスに好意を持っていたのではないのか。
それがどうして自分になど。

「やめ……」
「やめない! もう…抑えられないっ……」

悲痛な、叫びのような声だった。

「あっ」

天宮司が夏輝の首筋に顔を埋め、唇を押し当てる。
そこにはルビアスのときにつけられた跡があった。
夏輝は、ちりり、と刺すような痛みを感じる。

ルビアスのときはあれほど優しかったのに。
なのに今は、人格が変わってしまったかと思うほど、乱暴で自分本位で。
ルビアスのときに見せたあの天宮司はどこへいったのだ。

それに学校で夏輝に見せる態度とも違う。
学校での天宮司は何か冷めていて、周囲の生徒よりも大人びていた。

夏輝はどれが本当の天宮司なのか、その気持ちが分からず、惑う。

「放せ、天宮司」
「あなたが欲しいんだ…夏輝……」

再び口づけられる。
激しく貪られ、唾液が口元から顎を伝って、喉を濡らした。
背中に回された腕が夏輝の動きを封じ、スラックスに入れていたシャツが引っ張り出される。

「夏輝、夏輝、夏輝……」

天宮司は、夏輝の名を繰り返し口にする。

「落ち着け、天宮司」

このままではいけない。
自分の立場をわきまえなくては。

「おま…えは……生徒で俺は……」
「それが何だというんです。あなたの職業を好きになったわけじゃない」
「でも…っ……あっ」

シャツの裾から天宮司の手が入り込み、肌を直に触られる。
天宮司の手は冷たかった。

「な…つき……」

耳元で名を呼ばれる。
かかる吐息が熱い。

何かを思いつめ、潤んだ眼差しで夏輝を呼ぶ天宮司に、心が揺れ出す。

しかし天宮司はルビアスにもキスをして――。

「だ、だけどおまえ、お…お、女の子と……」

名前を言うわけにはいかなかった。
天宮司は知らないはずだ。

「好きなのはあなただけです」
「うそ…だ……」
「うそじゃない。好きです、夏輝」

天宮司もまた自分に気持ちを向けていてくれた。
流されてはいけないと思うのに、はっきりと言われて、嬉しいと思ってしまう自分の心が苛立たしい。

けれどルビアスも自分なのだ。

ルビアスのことは遊びだったのか。
遊びでキスされたのか、自分(ルビアス)は。

混乱した。
あの優しさは偽りだったのか。

「いやだ……」

それに、このまま力に押さえつけられて関係を持つのは嫌だった。

「夏輝?」
「いやだ、こんなの!!」

夏輝は思い切り天宮司を突き飛ばした。
 
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